平成232011)年度 共同利用登録実施報告書

 

課題番号

23−共研−12

分野分類

統計数理研究所内分野分類

b

主要研究分野分類

2

研究課題名

複雑ネットワークの制御に関するゲーム理論的アプローチのための大規模シミュレーションの実施と結果分析

フリガナ

代表者氏名

イマイ テツオ

今井 哲郎

ローマ字

IMAI Tetsuo

所属機関

山形大学大学院

所属部局

理工学研究科

職  名

大学院生 博士課程

 

 

研究目的と成果の概要

 情報通信や社会学,生物学など多様な分野において,その要素間の関係のトポロジ構造が複雑ネットワークと呼ばれる特性を持っていることが分かってきており,インターネットにおけるAS(Autonomous System)間トポロジも,その一つとみられている.AS間トポロジは,高い判断能力を持った多数の管理者によって分散的かつ利己的に構築されたものであるが,これまでの複雑ネットワーク生成の理論では,このような分散的・利己的なトポロジ形成が十分に表現しきれていなかった.このようなトポロジ形成のモデル化の方法の一つとして,ゲーム理論の分野でネットワーク形成ゲームというモデルが研究されている.我々は,複雑ネットワークを分散的・利己的なマルチエージェントによる合理的行動の帰結として表現可能であると考えており,その形成の仕組みの説明とその制御の方法論を構築するためのアプローチとして,ネットワーク形成ゲームの枠組みが有用であると考えている.
 我々は既に,ネットワーク形成ゲームを決定論的に動学化させたモデルとして,動学的ネットワーク形成ゲームモデルと呼ばれるネットワーク形成モデルを提案し,ノード数100の小規模なシミュレーションにより,我々のモデルが実際の現在のASトポロジと同じ特性を持ちうることを示し,ASトポロジが今後形成しうるトポロジの特性を明らかにしている.また,本モデルが構築する解空間の特性を分析し,本モデルによって得られるトポロジの特性の分析を進めている.
 動学的ネットワーク形成ゲームモデルは,収束する解を得るためのコンピュータシミュレーションにおける計算量が大きい.そのため,実際のAS数に相当する数をノード数としたシミュレーションを,通常のPC上でシミュレーションプログラムとして実行することはきわめて困難である.我々が今年度貴研究所の計算機システムに共同利用登録をした目的は,貴研究所の計算資源を利用してより大規模なシミュレーションを実行することで,本モデルの大規模なシミュレーションの実行,その結果の評価と,それによるモデルの精緻化へのフィードバックを行うことであった.
 我々は今年度の活動において,動学的ネットワーク形成モデルを用いた大規模ネットワークの形成のシミュレーションおよび,本モデルが構成する状態空間の特性分析に取り組んだ.前者後者共に,これまでの計算資源ではなしえなかった規模のシミュレーションを実行することが可能であることが明らかとなった.特に前者に関しては,これまで100ノード規模が限界であったシミュレーション規模を,1000ノード程度まで現実的に実行可能となることが明らかになったことで,大きく展望が開けた.
 来年度も継続して共同利用登録を行い,引き続きシミュレーションを実施する予定である.来年度は,我々の研究課題が採択され次第,今年度の活動を基礎にした研究成果を論文にまとめ,執筆する予定である.