平成182006)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

18−共研−2031

専門分類

7

研究課題名

多年生林床草本の空間的個体群動態解析

フリガナ

代表者氏名

シマタニ ケンイチロウ

島谷 健一郎

ローマ字

SHIMATANI Kenichiro

所属機関

統計数理研究所

所属部局

モデリング研究系

職  名

助手

所在地

TEL

FAX

E-mail

URL

配分経費

研究費

50千円

旅 費

100千円

研究参加者数

4 人

 

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

 林床多年生草本は一般に成長が遅く,長命で,毎年個体群を観察しても,一見,変化がないように見える。林床草本が種子から繁殖にいたるまで,あるいは,潜在的な寿命に達するまでに要する年数についての知見は多くない。また,林床草本の年次成長は必ずしも単調増加ではなく,停滞したり,前年よりも小さくなったりすることがある。林床草本の生活史特性や個体群動態における特徴を明らかにするにあたり,長期モニタリングデータから成長のパターンや寿命の推定を行うことを本年度の目的とした。
 我々が11年間,モニタリングを行っている夏緑多年生草本クルマバハグマについて,まず,カプラン-マイヤー法による生存解析から個体サイズクラスごとの生存率と平均余命の推定を行った。実生や小サイズ(個体葉面積TLA 160 cm2以下)の個体は生残率が低く(観測開始5年後T5で40%以下),平均余命も3-10年程度と短かった。それに対し,大個体(TLA 160 cm2以上)は生残率は高く(T5で60%以上),特に開花個体(TLA 640 cm2以上)ではT5で95%程度であり,平均余命も20年以上,開花個体では80年程度(T5)であった。
 次に成長のパターンを明らかにするために,10年以上観測記録がある個体を抽出し,成長曲線をロジスティック式で回帰し,さらに,AICで拡大と一定,縮小を判定した。10年以上存在しているものでも成長が停滞したり(TLA 640 cm2以上のクラスで45%程度),縮小したりするもの(同35%程度)が相当数あった。順調に成長するものは少数であった。
 種子から開花開始までの成長をモデル化した。個々の個体の年次的成長を直線で回帰した。ロジスティック成長を仮定し,適当な定数を与えた(TLA=c/(1+exp(a(t-b))))。定数を変化させてロジスティック成長曲線の傾きを変化させた。その際,個々の個体の成長直線回帰モデルがロジスティックモデルに数多く追随する定数の組を探した。多くの個体がフィットするときを典型的な成長と考える。典型的な成長曲線から,開花に至れる年数は50-80年程度であることが推定された。
 以上のように,生存解析と成長モデルの構築から,種子で加入し開花に至り,さらに天寿を全うするクルマバハグマは130年程度生存することが推定された。クルマバハグマは繁殖は種子のみで,栄養繁殖はほとんど行わない。林床の光資源が乏しい環境下で栄養繁殖をせずに個体群を維持することと,遅い成長および長命であることは密接な関係があることが推察される。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

【論文】
Kawarasaki, S., Abe, Y. and Hori, Y. (2004) Effect of temperature on achene germination in five Mutisieae understory herbaceous species (Asteraceae). Journal of Phytogeography and Taxonomy 52:159-166
高松潔,河原崎里子,堀良通ほか (2007) 夏緑草本カニコウモリの富士山亜高山帯針葉樹林での優占機構. 富士山研究 1: 1-9
Kawarasaki, S. and Hori, Y. Seasonal growth of summergreen understorey herbs Pertya robusta, P. triloba and Ainsliaea acerifolia var. subapoda in a cool-temperate deciduous forest. (投稿中)
Kawarasaki, S. Oikawa, S., Murase, T., Kawaguchi, Y., Fujita, Y., Ishida, A., Matsumoto, Y. & Hori, Y. Plasticity of photosynthetic capacity to light gradient of understory herbs. (投稿中)
Kawarasaki ,S. Shimatani, K. et al. Survival analysis and growth pattern of Pertya rigidula, a long-lived forest herb. (準備中)
【学会発表】
堀 良通・高松 潔・源後 睦美・清水 陽子・河原崎 里子・安部 良子・中野 隆志. 夏緑草本カニコウモリの富士山亜高山帯針葉樹林での優占機構. 日本生態学会 第51回大会
相川真一. コゴメウツギの成長戦略-枝系の発達様式からみた萌芽更新の意義-. 第36回種生物学シンポジウム
河原崎里子・石田厚. 林床低木コウヤボウキの展葉時季の異なる二枝の葉における光合成誘導と光合成阻害の季節変化. 第52回日本生態学会大会
河原崎里子,島谷健一郎ほか 林床草本クルマバハグマの12年間の動態. 第54回日本生態学会大会
【著書】
河原崎 里子 (2005) 夏の森に生きる草花たち-コウヤボウキ連植物. In:種生物学会編 「草木を見つめる科学−植物の生活史研究−」 文一総合出版. pp.135-161
河原崎 里子 (2005) 花の中の花を観察. 「森の花を楽しむ101のヒント」 日本森林技術協会. pp.72-73
河原崎 里子 キク科などの項目を担当「生物学大事典」東京化学同人(印刷中)

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

相川 真一

茨城大学

河原崎 里子

成蹊大学

真鍋 徹

北九州市立自然史・歴史博物館