平成232011)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

23−共研−2007

分野分類

統計数理研究所内分野分類

a

主要研究分野分類

4

研究課題名

地震検知能力の周期的な時間変動に関する定量的解析

フリガナ

代表者氏名

イワタ タカキ

岩田 貴樹

ローマ字

Iwata Takaki

所属機関

統計数理研究所

所属部局

予測発見戦略研究センター

職  名

特任准教授

配分経費

研究費

40千円

旅 費

3千円

研究参加者数

3 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

 地震検知能力の日変化を定量的に調べることが本研究の目的である。地震を検知する際に妨げとなるノイズの多くは社会活動などによる人工的なものであり、夜間には小さいため、地震の検知能力も日周期で変化することはよく知られていることである。但し、定量的にどの程度の変化であるかを調べた例はなく、今後の地震活動解析のために、統計モデルに基づく定量的解析を試みた。
 データとしては、気象庁による一元化震源カタログを用いた。これより、Nanjo et al. [2011]が"mainland"と定義した日本の沿岸部および内陸部を含む地域内のものを抽出し、解析に用いた。このデータを1日ごとに分割し、重ね合わせたものを解析に用いた。解析期間は2006年から2010年とした。なお、この地域の地震はNanjo et al.[2010]の解析結果などに基づき、マグニチュード(M)が1.9以上であれば完全であるとNanjo et al. [2011]は結論付けている。
 地震検知能力を評価するためにここで用いた統計モデルは、Ogata and Katsura[1993]が提案したものを用いる。このモデルではMの関数として、地震の検知率を表すことが出来る。但し、このモデルでは、地震検知率は漸近的に100%に近づくのみで、100%そのものになることはない。そこで、地震検知率は99.9%になるMを、これ以上の大きさの地震は完全に検知されているとする"completeness magnitude"(Mc)とみなすこととした。
 地震検知能力の日変化は、Iwata[2008]とほぼ同様の手法を用いた。この手法では、検知率を表すために必要なパラメータの日変動を1次(直線)のスプラインで表す。各地震の発生時刻をスプラインの節点とし、変動の滑らかさに相当する事前分布を与えた上で、各節点におけるパラメータ値の事後分布をベイズ的な手法で推定した。但し、事前分布を構築する際、パラメータの値が解析期間の始点と終点でも滑らかにつながるようにしている。これは、上述のように、元のデータを1日ごとに分割し、それらを重ね合わせたものを解析に用いており、パラメータが日周期で変化していることを考慮したためである。
 滑らかさの重みはハイパーパラメータで表現し、ABICによりハイパーパラメータの値を最適化した。また、モデルパラメータが日変化しない場合も考慮し、検知能力の日変化の有無についてもABICに基づいて判断した。
 "mainland"全体に対する解析では、昼間と夜間とでMcの値は0.25〜0.30程度変化することが分かった。さらに詳細な解析として、地域ごとの違いを考慮すべく、解析領域を0.5度四方の小領域に分けた上で、各小領域に対して同様の解析を試みた。地域ごとの地震数の違いによる影響があり、地震数が少ない小領域については、特に検知能力の日変化がないとするモデルが選択されることもあった。しかし、約半数強の小領域で、検知能力の日変化があるとしたモデルが選択され、その場合のMcの日較差は、最大で0.8程度であった。また、昼間の最も検知能力が低い時、即ち最大のMcは、大半の小領域ではNanjo et al.[2011]によるM=1.9とほぼ同等またはそれ以下の値となったが、それ以上の値となるケースも散見された。中には、検知能力の日変化を考慮しないモデルではMcが1.9未満となるのに対し、日変化を考慮したモデルで1.9を超えたケースもあった。以上のことから、このような解析を通して、改めて地震カタログの性質を正確に調べることの重要性が伺われる。

参考文献

- Iwata, T., 2008, Low detection capability of global earthquakes after the occurrence of large earthquakes: investigation of the Harvard CMT catalogue, eophys. J. Int., 113, 849-856.
- Nanjo, K.Z., Ishibe, T., Tsuruoka, H., Schorlemmer, D., Ishigaki, Y., and Hirata, N., 2010, Analysis of the completeness magnitude and seismic network coverage of Japan, Bull. Seismol. Soc. Am., 100, 3261-3268.
- Nanjo, K.Z., Tsuruoka, H., Hirata, N., and Jordan, T.H., 2011, Overview of the first earthquake forecast testing experiment in Japan, Earth Planets Space, 63, 159-169.
- Ogata, Y., and Katsura, K., 1993, Analysis of Temporal and Spatial Heterogeneity of Magnitude Frequency-Distribution Inferred from Earthquake Catalogs, Geophys. J. Int., 113, 727-738.

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

[学会発表]
- Iwata, T., Daily variation of the detection capability of earthquake and its influence on the completeness magnitude, International symposium on statistical modeling and real-time probability forecasting for earthquakes, March 2012.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。


 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

尾形 良彦

統計数理研究所

松浦 律子

地震予知総合研究振興会