平成262014)年度 一般研究2実施報告書

 

課題番号

26−共研−2007

分野分類

統計数理研究所内分野分類

a

主要研究分野分類

3

研究課題名

クローナル植物の地下茎伸長におけるラメット配置パターンの時空間解析

フリガナ

代表者氏名

アラキ キワコ

荒木 希和子

ローマ字

Araki S. Kiwako

所属機関

立命館大学

所属部局

生命科学部生物工学科

職  名

助教

配分経費

研究費

40千円

旅 費

61千円

研究参加者数

4 人

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

クローナル植物は種子繁殖とともにクローン成長によっても新たな株(ラメット)を生産する。クローン成長により生産されたラメットは、さらにその子孫ラメットを生産し、空間的に広がっていく。一方で古いラメットは枯死するため、その配置場所は動物の行動のように移動し、時間的に変化する軌跡を描く。また、ラメット間の連結を調べることで、ラメット間の親子関係やクローン成長の頻度など、ジェネット(クローン)内のデモグラフィを追跡することができる。したがって、クローナル植物においてはラメット間の連結情報が集団構造や生活史特性を理解する上で重要なデータになりうる。しかし、このような情報をデータ化し、解析する方法がないため、ラメットの配置パターンに関する研究は描画や図化にとどまっている。これらの情報を個体群研究に取り入れるには、ジェノタイプや空間構造を考慮した個体群統計学的解析方法を発展させる必要がある。
そこで本研究では、クローナル植物スズランの地上ラメットのデモグラフィと地下茎での連結、空間的な位置情報から、集団の時空間的解析を行う統計手法を構築し、クローナル植物を含めた固着性クローン生物の生活史特性の理解につなげることを目的とする。
 2005-2007年に北海道中札内村のクローナル植物スズラン(Convallaria keiskei)の自生集団の2*28mの調査区において、調査区内に存在するラメットの地上部の挙動を追跡調査した。2007年の9月に調査区内に優占する3ジェネットに属する702ラメット(378、218、106ラメット)を含む14m2に存在する地下茎を掘り起し、ラメット間の連結および新芽の形成について調査した。本年度は2014年7月に1回(2日)、8月に2回(7日)、9月に2回(3日)に共同研究者が集まり、このデータを用いてデータ解析と結果の議論ならびに研究会での成果発表を行った。
具体的な内容として、はじめに、地下茎でのラメットのつながりをもとに、連結情報として(1)追跡した2ラメット間の連結、(2)調査区外ラメットとの連結、(3)新芽との連結、(4)枯死ラメットとの連結、(5)独立などの連結パターンを分類した。このうち、調査区内で位置が特定されている2ラメットが連結していたパターンについて、2点のラメットの位置座標をもとに、ラメットの伸長している方角と距離を計算した。その結果、全てのデータを含めた場合には、地下茎の伸長はあらゆる方向を示しており、その分布は非常に複雑であることがわかった。一方、場所ごとに詳細なパターンを調べてみると、場所によっては近隣のラメットが同一の方向に伸長しているパターンが認められた。また、ジェネットによって方向が明瞭である場合と不明瞭であるものがあることがわかった。さらに、ラメットの出現した年によっても方向性が変わることが示唆された。この結果は、8月26日に東京理科大学で行われた統計思考力教育養成ワークショップ「方向データの統計モデリングと応用事例」において、「地下茎で広がるクローナル植物の空間パターン?スズランのクローン成長とその伸長方向?」として発表を行った。
 次に、ラメットの分布は地上部の出現と消失によっても影響を受けるため、地上部の挙動について個体群統計学的解析を行った。地上部の追跡調査のデータをもとに、2006, 2007年に出現したラメット及び新芽の生産確率、枯死ラメットによる消失確率を算出するとともに、各ラメットの成長率を計算し、繁殖確率と成長率を求める推移行列モデルを構築した。新しいラメットは、地下茎の連結の先端にある新規ラメットから生産される確率が最も高いため、先端であるか否か、地上に出現して一年目か二年目以降かに着目してクラス分けした繁殖動態行列を考案した。ラメット成長は、葉数(一枚葉もしくは二枚葉)と葉の長さにもとづいたサイズクラスの行列モデルを用いた。この推移行列をジェネットごとにあてはめ、個々のジェネットの推移を調べた。その結果、優占する全てのラメットで正の成長を示したものの、成長率はジェネットにより異なっていることが明らかとなった。この成果は、9月24日に統計数理研究所で行われた「行列モデル研究集会」において「クローン成長の推移行列」として発表を行った。
 今後は、このパターンをもとにジェネットごとの伸長パターンを描くシミュレーションを構築し、どのようにジェネットやラメットの分布が形成されていくのかを再現することで、どのような要因が地下茎の伸長パターンを規定しているかを明らかにするとともに、空間構造を考慮した個体群統計学的解析方法を発展させていく予定である。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

Shin Fukui, Kiwako S. Araki. Spatial Niche Facilitates Clonal Reproduction in Seed Plants under Temporal Disturbance. PLoS ONE 9 (12), e116111.

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

単独での研究会の主催は無し

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

稲葉 優太

京都大学

大原 雅

北海道大学

島谷 健一郎

統計数理研究所