平成292017)年度 一般研究1実施報告書

 

課題番号

29−共研−1016

分野分類

統計数理研究所内分野分類

h

主要研究分野分類

3

研究課題名

機械学習を利用したタンパク質電子状態計算の効率化

フリガナ

代表者氏名

サトウ フミトシ

佐藤 文俊

ローマ字

Sato Fumitoshi

所属機関

東京大学

所属部局

生産技術研究所

職  名

教授

 

 

研究目的と成果(経過)の概要

タンパク質カノニカル分子軌道計算に必要な基盤技術が確立しつつあるが、難易度が高く、またその計算コストは非常に高い。本研究では貴重なタンパク質電子状態計算結果を蓄積・データベース化するとともに、そのデータから機械学習を用いてより効率的な計算・解析手法の開発を目指すことを目的としている。
 1.タンパク質電子状態解析における機械学習の利用
 タンパク質におけるカノニカル分子軌道計算は、低分子で培われた解析手法がそのまま利用できる利点がある一方、数千原子からなるタンパク質の分子軌道データは数十GBにおよび、解析パラメータが爆発的に増加して計算結果解析の妨げとなっている。機械学習で利用されているクラスタリング手法を用いて俯瞰的な電子状態解析を支援するとともに、見逃されてきた電子構造的特徴の発見に挑戦したい。
 電子状態計算から得られる形式電荷は、一目で理解することが難しい波動関数データから、原子の電荷として粗視化し、電子・電荷の分布を俯瞰することができる、便利な物理量である。一方で、形式電荷を算出する方法によって得られる電荷はまちまちであり、評価対象に応じて研究者が選択する必要がある。タンパク質周辺の静電ポテンシャルを再現する電荷として、Merz-Kollman電荷やRESP電荷が知られているが、本研究では新たに制限付きRidge電荷・制限付きLASSO電荷を求める方法を開発・実装した。制限付きRidge電荷・制限付きLASSO電荷ともに分子表面上の静電ポテンシャルを再現する回帰モデルとして得られる。分子・イオンの総電荷量を一定にするため制限を課している。タンパク質分子の大きさと正則化パラメータによって、電荷・静電ポテンシャル再現性は大きく異なることがわかった。今後、様々なモデルを通して適した正則化パラメータを探査する必要がある。
 2.機械学習を利用したタンパク質電子状態計算の効率化
 20種程度のアミノ酸が規則的に構成されたタンパク質鎖に比べ、ヘムなど巨大なヘテロ分子の計算は多くの経験を必要とし、依然として人の手による記述が必要である。タンパク質構造データベース(PDB)に登録されているヘテロ分子に対し、いくつもの計算パターンを網羅的に実行し、その結果から最適な計算プロセスを学習する仕組みを構築する。
 本年度はQCLO法に基づく自動計算プログラムを開発・アップデートを行い、 計算シナリオにおけるテンプレート機能、繰り返し処理を実装した。また煩雑なタンパク質モデリングをサポートするモデラープログラムを作成した。これにより、タンパク質構造の公共データベース(PDB)から取得した構造データから量子化学計算に適する水素付加・対イオンの付加などモデリングをある程度自動的に施すことが可能となった。モデリングの自動化を図るためには不規則なヘテロ分子の対応が課題であり、さらなる機能追加を計画している。

 

当該研究に関する情報源(論文発表、学会発表、プレプリント、ホームページ等)

【学会発表】
- Toshiyuki HIRANO, Fumitoshi SATO, "Study of High-Performance Canonical Molecular Orbitals Calculation for Proteins", International symposium: Computational Chemistry (CC) in ICCMSE2017 (2017).
- 平野敏行, 佐藤文俊, "カノニカル分子軌道計算によるインフルエンザM2タンパク質の電子構造", 分子科学討論会2017 (2017).
- Toshiyuki Hirano, Fumitoshi Sato, Electronic structure of the active site on glucose oxidase by using canonical molecular orbital calculation, The 58th Sanibel Symposium (2017).
【ホームページ】
http://www.satolab.iis.u-tokyo.ac.jp/

研究会を開催した場合は、テーマ・日時・場所・参加者数を記入してください。

研究会は開催しませんでした。

 

研究参加者一覧

氏名

所属機関

平野 敏行

東京大学