第53巻第1号3−33(2005)  特集「日本人の国民性調査 50年」  [研究ノート]

日本人の国民性 50年の軌跡
――「日本人の国民性調査」から――

統計数理研究所 坂元慶行

要旨

統計数理研究所では,1953(昭和28)年から5年おきに「日本人の国民性調査」を行い,調査開始50周年に当たる2003(平成15)年の9 - 10月に第11次全国調査を実施した.この論文の目的は,これら11回の調査の結果に基づいて,国民性調査とはどんな調査で,何がどこまで分かったか,その全体像を概説することである.このため,この50年間を二つの時期に分け,まず,1953年から1970年代までの意識動向について簡単に振り返った後,1970年代以降の意識動向について詳しく分析し,次のような指摘を行った.
(1)“一番大切なのは家族”が増加の一途をたどり,(2)女性志向が一層強まり,(3)自然志向が強くなり,(4)政治意識が大きく変わる等の変化が見られた.なお,前回の1998(平成10)年の調査では,不況の影響を受けてか,(5)日本の現状評価や将来の見通しが大きく落ち込んだが,今回の調査でも回復は見られなかった.また,今回の調査に関して,(6)自分の生活水準は落ちたという意見が増えたが,貧困感やくらしむきへの不満が強まる程ではなかった.最後に,(7)国民性調査で長く変化の小さかった項目のうち,特に身近な人間関係観に関する項目は,近年,揺らぎがますます大きくなってきた.
最新の調査では,回収率の低下等,調査法に関しては大きな変化が見られたが,個々の質問に対する結果に関しては数字上は変化の小さい項目が多かった.しかし,私生活を優先する価値観の顕在化という戦後の意識動向を貫く基調はますます強まりつつある.

キーワード:日本人の国民性調査,国民性,価値観,継続調査,時系列分析.

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第53巻第1号35−56(2005)  特集「日本人の国民性調査 50年」  [研究ノート]

調査不能者の特性に関する一考察
――「日本人の国民性第11次全国調査」への協力理由に関する事後調査から――

統計数理研究所 土屋隆裕

要旨

「日本人の国民性第11次全国調査」の回収サンプルに対して,郵送法による事後調査を実施した.事後調査では,第11次調査への協力理由を質問し,その回答に基づいて,事後調査の調査票返送者を積極協力者と消極協力者とに分類した.まず,積極協力者,消極協力者,事後調査における未返送者の間で,第11次調査の回答分布を比較したところ,未返送者は濃密な人間関係や社会一般に対して無関心である傾向や,‘その他’が少なく‘わからない(D.K.)’が多い傾向を持つことが見出された.次に,未返送者の回答分布を推定するために,四つの方法を試みた.具体的には,返送者のうち消極協力者だけを用いる,人口統計学的属性を重みづけ調整する,‘その他’・‘D.K.’の比率を未返送者のそれらに一致させる,積極協力者の回答分布と消極協力者のそれとの間の差を利用する,といった方法である.そして未返送者の実際の回答分布との比較を行い,未返送者の回答分布を推定する上で,各方法がどの程度効果的なのか検討した.

キーワード:調査不能,事後調査,調査協力理由,重みづけ調整,多次元尺度構成法.

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第53巻第1号57−81(2005)  特集「日本人の国民性調査 50年」  [研究ノート]

郵送調査法の特徴に関する一研究
――面接調査法との比較を中心として――

統計数理研究所 前田忠彦

要旨

本論文の目的は実査モードの異なる複数の調査結果を比較することを通じて,郵送調査の調査方法上の特徴を検討することである.この目的のために,面接法による「日本人の国民性第11次全国調査」と,同じ時期に行った郵送法による調査のデータを用い,両者の特徴を比較した.同時に,過去に行われた郵送調査など他のいくつかの調査も参照した.
第1の検討事項として,各調査における属性別の回収率を検討したところ,最も明らかな結果は,どの調査にも共通して若年男性層での回収率が低いことであった.グループごとの回収率の違いにより,各調査の回収標本で基本的な属性変数の分布に偏りが生じる.郵送調査では,性・年齢に関する偏りが面接調査よりも小さいものの,学歴は面接調査と異なり,母集団分布よりも高学歴に偏っていた.
第2の検討事項として,郵送,面接という二つの調査モードにおける調査項目の回答分布の違いについて2群の項目グループに分けて考察した.その第1のグループは中間的な選択肢を持つ項目に関するものである.調査項目に関する実験的検討に基づき,自記式調査の特徴として,郵送法では中間的な選択肢が極端に多くの回答を集めてしまうが,ワーディングの工夫によって面接法との差を解消することは難しいことを示した.第2のグループの項目では,中間的選択肢など明らかな原因はないが,調査モード間で大きな差を示す項目の内容について検討したが,明確な差の原因を見出すことはできなかった.
以上の材料に基づいて,郵送調査法の特徴を何点かにわたって議論した.

キーワード:日本人の国民性調査,郵送調査,面接調査,回収率,モード効果,属性変数.

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第53巻第1号83−101(2005)  特集「日本人の国民性調査 50年」  [研究ノート]

電話調査における調査所要時間と
回答傾向について

統計数理研究所 土屋隆裕

要旨

本稿の目的は,電話調査における調査所要時間と回答傾向との関係を調べ,データ分析に際しての調査所要時間の活用方法を検討することである.そこで,電話調査の回収サンプルを調査所要時間に基づいて2群に分類し,短時間群と長時間群の間で調査への回答分布を比較した.まず,ロジスティック回帰分析の結果,高齢者ほど調査所要時間は長くなることを示した.回答者が調査に協力した理由が,調査所要時間の長短に関係しているのではないかと考えられたが,実際には関係は認められなかった.次に,短時間群に比べ,長時間群の方が,‘その他・わからない(D.K.)’の回答比率が大きくなることを示した.さらに,split-ballotデザインを用いた調査結果から,選択肢の数や表現,提示順序の違いが回答に与える影響について述べた.特に選択肢の数と提示順序の違いについては,長時間群に比べ,短時間群の方が,その影響を大きく受ける傾向にあった.最後にまとめとして,これらの結果に基づき,調査データ分析のために,調査所要時間を活用する方法について論じた.

キーワード:電話調査法,日本人の国民性調査,調査所要時間,反応潜時,調査協力理由.

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第53巻第1号103−132(2005)  特集「日本人の国民性調査 50年」  [原著論文]

コウホート分析における交互作用効果モデル再考

統計数理研究所 中村隆

要旨

年齢×時代の交互作用効果をもつベイズ型コウホートモデルについて再考察する.既存のモデルを階差ベクトルと階差行列を導入することにより再記述し,いったんコウホートモデルを離れて順序尺度水準の2元分割表のための階差制約付き2要因交互作用効果モデルを提示する.ただしこのモデルに単にコウホート効果を追加したのでは,交互作用効果がコウホート効果を吸収してしまうという問題点のあることを指摘し,交互作用効果による部分ベクトルをコウホート効果によるものについても直交させる新しい交互作用効果をもつコウホートモデルを提案する.パラメータ数の節約のために,年齢×時代の交互作用効果のいくつかの時点を間引く手順も導入した.日本人の国民性調査データへ適用した例を示す.

キーワード:APCモデル,家族が一番大切,ABIC,パラメータの漸進的変化の条件,ベイズ型モデル.

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第53巻第1号133−157(2005)  特集「日本人の国民性調査 50年」  [研究ノート]

非正規データにおける情報量規準を用いた
共分散構造モデルの選択問題
――「日本人の国民性調査」データへの適用――

筑波大学大学院 柳原宏和

要旨

データに正規性を仮定した下での共分散構造モデルの選択問題に関する赤池情報量規準(AIC )は,実際に観測値が従う分布である真の分布が正規分布でなく未知の非正規分布であった場合,真の分布の尖度に依存した定数バイアスを持つ.本論文の目的は,部分的に交差確認法(クロス・バリデーション)を適用することでバイアスを補正した,修正 AIC を選択規準に用いることにより真の分布の非正規性の影響が小さくなるような選択法を提案することである.この修正 AIC のバイアスは AIC TIC のバイアスよりも小さくなることを漸近展開式とシミュレーション実験により確かめる.また,実解析への適用例として国民性調査第 11回全国調査のデータに「日本人の満足感」に関する因子分析モデルをあてはめ,その最適モデルを探索する.

キーワード:赤池情報量規準,因子分析モデル,交差確認法,非正規性,モデル選択.

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