ISM Research Memorandum
No.
1072
Title:
信用リスクスコアリングにおけるAUCとAR値の最大化法
Author(s):
三浦 翔 (総合研究大学院大学)
山下 智志(統計数理研究所)
江口 真透(統計数理研究所)
Key words:
ROC curve,AUC,sigmoid function
Abstract:
企業の信用リスクスコアリングの分野において広く用いられているAUC(Area under Curve)による新しい手法を提案する。提案する手法では、AUCを最大化する線形スコアリングのパラメータの推定値を求め、モデルを作成する。従来からの手法は、2値回帰モデル、特にロジットモデルを仮定し、最尤推定法により線形スコアリングのパラメータの推定値を求めることによってモデルを作成するものであるから、本論文で提案する手法とは大きく異なる。
従来の手法で作成されたモデルの妥当性を測る指標としては、以前からAUCは用いられてきた。しかし、従来からの手法で作成されたモデルは、一般的にはAUCを最大化しない。AUCを目的関数として用いることによって、AUCに関して最適なモデルが得られる。AUCは微分できない階段関数で定義されるため、微分可能な連続関数で階段関数を近似することにより、微分可能な近似AUCを最大化するようなパラメータの推定値を求める。AUCとAR値は比例関係にあり、得られるパラメータの推定値はAR値も最大化する。
本稿で提案する手法により作成されるモデルは、AUCに関して最適性を有するだけでなく、従来の手法で得られるモデルよりも外れ値に対してロバストであるという結果が得られた。財務指標データにおいては、外れ値が含まれるデータが多くみられるため、外れ値に対してロバストなモデルが得られる手法は有効である。デフォルト直前期の財務指標は信頼性が低いため、少数の外れ値に依存しないことは適切な手法としての重要な要素である。