近代科学においては、複雑かつ曖昧模糊とした未知の事象を、最適化過程として
捉えるという認識論的方法によって、自然法則・原理の発見に成功してきた。
また、現代の工学や経営においては、様々な制約の下で対象を最適に管理・制御
する技術として最適化法があらゆる分野で利用されている。このように最適化には
「認識論的枠組」としての側面と「計算アルゴリズム(最適化法)」の技術という
側面がある。統計学においても、最小2乗法、最尤法、最大エントロピー法、
統計的決定関数、最適層別などの例に見られるように、「概念装置」としてあるい
は「推論(計算)法」として最適化が重要な役割を演じている。また、自然科学・
工学のみならず社会事象や生物現象の解明にも最適化のこの二つの側面が有用と
されており、さらには生物が行う高次の情報処理の研究にも重要な方法となっている.
最適化の二つの側面に対応する「モデリング」と「アルゴリズム」の研究は、この
ような近代科学技術の方法における基本的パラダイムに根ざしたものである。
統計数理研究所においては、統計学およびオペレーションズ・リサーチの枠組
みの中で、長年「最適化」および「計算」の研究を深化・発展させてきた。とりわけ、
各種の新しい計算アルゴリズムの開発、ニュートン法、微分幾何学的アプローチの
開発、主・双対内点法の開発やアフィンスケーリング法の解析、無限次元最適化
問題の解法などにおいて国際学界をリードする成果を挙げている。本共同研究は、
統計数理研究所が1985年に共同利用研究所に改組転換されて以来、共同研究
分野「計算と最適化」の下に、研究所内外の研究者を組織して継続的に行ってきた
ものである。毎年、「線形計画の新解法」および「最適化:モデリングとアルゴ
リズム」のテーマの下に、共同研究集会を海外からの研究者を交えて開催し、わが国
の最適化研究の中核拠点として活動してきた。その発表論文はその都度「統計数理
研究所共同研究リポート」の形で刊行され、すでに15巻を数えるに至っている。
収録されたものの多くは後に国際学術誌に掲載され、世界の学界をリードする研究
潮流をかたち作ってきた。
今後コンピュータの進歩に伴って、益々大規模で複雑な最適化モデルが操作可能
となり、計算集約的推論における最適化の役割は一層増大するものと予想される.
とくに、来世紀における統計科学の主要な舞台においては、組み合わせ的な事象
の最適化モデルによる情報処理が主要な役割を演じることになると思われ、この
分野の発展を目指してゆきたい.
1999年7月
統計数理研究所
田辺 國士
(研究代表者)