ー 極値理論 ー


 高度に発達した社会では、希にしか起きない現象によって人は大きな被害をこうむることがある。 そこで、平均ではなく希な現象を取り扱う極値理論を考える必要がある。 極値理論は古くから水文学や工学の分野で防災のために研究・応用されてきた。現在では環境や金融工学の分野でも研究・応用されている。極値理論標本または確率過程の極値(最大値または最小値)の漸近挙動を問題にする。統計学では、限られた期間(または領域)で得られたデータを利用して、与えられた長期間(広領域)でのデータの取りうる最大値の予測が重要である。 このとき、得られたデータの最大値で長期間それを予測するのは賢明でなく、極値理論に基づきデータの外挿を行う必要がある。 一方、応用確率論では種々の確率過程での極値統計量の漸近分布の研究が盛んである。
 確率標本の極値統計量の漸近分布の研究は1920年代に始まり、3つのタイプがあることが分かった。これら3つのタイプの極値分布を一般値分布として一つの式で表し極値データの解析が行われている。 しかし、一定期間ごとの極値データではデータ数が少なく推測の精度は良くない。 そこで、データを増やす試みがなされた。 ある閾値以上の超過データに適合させる一般パレート分布各期間ごとで上位γ(≥2)個のデータに適合させる同時漸近分布が導出され、これらの分布はデータ解析に応用されその有用性がしめされている。 多変量極値の研究は1960年代頃に始まった。2変量の極値分布の特徴付けから始まり、一般の多変量極値分布の研究が行われた。 最近では多変量極値分布のパラメトリック・モデルが提案され環境データの解析に用いられている。 また、時系列での極値理論の研究も行われ金融工学の分野で応用されている。
 現在、極値理論の研究はヨーロッパやアメリカの少数の有力な研究者を中心にいたグループにより活発に行われている。 日本では古くから水文学や工学の分野研究・応用されてきた。また、統計や確率の分野での研究もあるがそれほで多くはない。 ところで、極値理論の研究者は多くはないが、統計数理研究所の共同研究集会「極値理論の工学への応用」は10年間続いており最近同研究所よりリポートを発行している。
( 統計数理-極値理論特集号 Vol.62,No.1 (2004年) 「はじめに」 より抜粋引用 )