東北地方太平洋沖地震の前震活動と広域的静穏化について
Preshock activity and quiescence for long-term seismic activity in and around Japan

統計数理研究所

Institute of Statistical Mathematics

 

 

1.        前震活動の特徴について
 前震活動は3月初めより始まっていたが,3月9日のM7.3の最大前震を先頭とする活動は顕著であった.この活動のb値は極めて低い1).この活動の時間的な減衰は3月11日のM9の地震まで大森宇津の公式が(ETASモデルより)良く当てはまり,どの下限マグニチュードでもp値が有意に1より小さい(第1).この余震がこのまま続けば期待余震数(大森宇津の式の積分)が無限大になるので,どこかでp値が小さくなってもらわないと困る.果たして,一旦,M9本震が起きると,そのM7.3最大前震の余震域においては殆ど活動が無くなった(第1).M9本震直後は確かに検知率が悪いが,このことを勘案しても,この領域に関する限りはpが1以下というのを解消して,静穏化になっている.M9地震までの活動の,経度や緯度のETASでデトレンドした変換時間に対する時空間パタンは「一様な」余震活動(たとえばM9の余震活動参照)に比べて甚だしく非一様であり重心が移動しているように見える(第2).

 

2.        長期的地震活動における超広域での静穏化
 日本全体で常時的な地震活動を取り出すということで,その時間変化を見た.広域になると地震活動のパタンが場所ごとに違うので,除群化するときに支障がある.その違いを斟酌して常時地震活動を出すために地震活動の地域的特徴(場所ごとに異なるパラメタ値)を捉える時空間ETASHIST-ETAS)モデル2)による確率的除群法3)で常時地震を残した.すなわち各地震が常時活動の地震である確率は時空間ETASの中で常時地震活動の占める割合を計算して,その確率で取捨選択する.これを全ての地震について行う.宇津カタログの地震も履歴として使い,全日本(南西諸島を除く)の1926年から2011M9の地震時までのM5+地震データを除群化して常時地震を得た(第3)ところ,最近10年間西南日本を含む日本全国で常時地震が疎らになっている(第4).特に気になるのは西南日本の明瞭な静穏化である.この静穏化を追認するために西南日本と日向灘の活動についてのオリジナルデータに対して時間ETASモデルで解析したところ有意な相対的静穏化が見られる(第5).

 

これらの現象を説明するシナリオとしてGPSデータによるバックスリップ・インバージョン4)や小繰り返し地震による固着率低下地域5)を参考にして,宮城県福島県沖でのすべりが加速したと仮定し,東西圧縮の横ずれ断層と逆断層(西南日本や東北地方・日本海東縁)についてクーロン・ストレスの増減変化をプロットした(第6上段左及び右図).それらはストレスシャドウになる.また図には示さないが南北圧縮の横ずれ断層と逆断層(伊豆・伊豆諸島や関東地方)もほぼストレスシャドウになる.地震活動の静穏化はストレスシャドウと調和的であると考えられる.他方,別の気になるシナリオは,東海・東南海・南海トラフのプレート境界のすべりが加速しているためかもしれないということである.東海東南海(安政)昭和東南海・南海の断層角を仮定した「すべり」の加速について,北西―東南圧縮のプレート境界逆断層を受け手としてみるとCFSは正となる(第6中段及び下段図).これは日向灘の地震活動の静穏化と調和的でない.ゆえに後者のシナリオでの説明は難しいと考える.

 

 マグニチュード下限を下げた、最近の東北地方とその周辺の地震活動のパタンは少々複雑である.広域的な地震活動異常6)を説明するために採用した,2008年岩手県宮城県内陸地震の先駆的なすべりを仮定したDCFS図の広域的なパタン(中段左パネル)は宮城県福島県沖のすべり(中段右)に起因するパタンと似ている.従って第7にある各地域の地震活動異常は東北地方太平洋沖地震の前駆的活動異常であった可能性がある.

(尾形良彦)

 

参考文献

1.     地震研究所,予知連会報.本巻

2.        統計数理研究所,予知連会報83;  Ogata, 2011, Earth Planets Space, 63

3.        Zhuang et al., 2005, J. Geophys. Res..,

4.     国土地理院,予知連会報.本巻

5.     東北大学,予知連会報.本巻

6.        Kumazawa et al., 2010, J. Geophys. Res., 115.