統計地震学研究プロジェクト

 

外部評価委員会報告書

 

 

200612


 

目次

1 序文 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

47

1.1 外部評価委員会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

48

1.2 統計地震学研究グループ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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1.3 評価項目 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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はじめに ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

49

学術的活動の質とインパクト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

49

統計学的理論と方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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1.4 地震学的理論と方法 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

50

2 共同研究活動と社会的貢献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

52

2.1 研究所の対外的活動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

52

2.2 社会的貢献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

53

3 次世代への展開 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

54

4 将来の活動計画に対するコメントと提案 ・・・・・・・・・・・・・・・・・

55

5 総括と推奨事項 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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参考文献 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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付録1:外部評価スケジュール ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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付録2:委員会に提出された研究資料 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

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付録3:第4回統計地震学国際ワークショッププログラム ・・・・・

81

 


1 序文

 

 統計数理研究所は平成164月に大学共同利用機関法人情報・システム研究機構の一研究所として再編された。これに先立ち,平成15年度には今後の統計数理の発展の方向を考慮して,「予測と発見」のためのモデリングや推論アルゴリズムなどの研究および統計ソフトウェアの開発を,ゲノム科学や地球・宇宙科学の具体的課題の解決を目指す組織として予測発見戦略研究センターを設置した。設立時は

         ゲノム解析研究グループ

         動的磁気圏研究グループ

         地震予測研究グループ

3グループによってスタートしたが,平成17年度には新たに1グループを加えるとともに

         ゲノム解析グループ

         データ同化グループ

         地震予測解析グループ

         遺伝子多様性解析グループ

に再編した。

 このようなプロジェクト研究に関しては,自ら立てた目標,計画をどの程度まで実現したかの評価が不可欠である。今後順次,4グループの中間評価,プロジェクト終了時の評価を実施していく予定であるが,その第1弾として平成17年度に外国人研究者3人,日本人研究者2人からなる外部評価委員会を構成し,地震予測解析グループの中間評価を実施した。評価委員会に先立ち評価委員には,評価のための資料を送付した。また,評価委員会に先立ってグループのリーダーである尾形教授を中心として,「第4回統計地震学国際ワークショップ」を開催し,グループメンバーの報告を評価委員に聞いていただく機会を設けた。このワークショップでは,尾形教授と3名のポスドク研究員が発表し,その後,評価委員からの質問に答えるという形で,研究内容に関しての実質的な評価を行った。このほか,外部有識者からの意見聴取のために,評価委員会では松浦律子博士へのインタビューも行われた。

 評価委員会の委員長であるデーヴィッド・ベア−ジョーンズ教授(ビクトリア大学・統計研究アソシエイト有限会社,ニュージーランド)を中心にまとめられた英文の報告書は平成183月末に届けられた。添付している報告書の和訳は,民間翻訳会社により納入された和訳原文を統計数理研究所により専門的表現を監修したものである。諸事情により,評価報告書の公開が遅れたことお詫びしたい。

  評価は評価者および評価を受けるものにとって多大の負担を伴うが,評価結果を将来の改善に活用してはじめてその苦労が報われることになる。統計数理研究所は研究グループのメンバーとともに,今回の評価結果を真摯に受け止め今後の改善に繋げたいと考えている。

 最後になるが,この評価のために貴重な時間と労力を割いてくださった評価委員の方々には厚くお礼を申し上げたい。

 

              平成18831

統計数理研究所長

北川 源四郎

 

 

1.1 外部評価委員会

 

マッシモ・コッコ                                  国立地球物理火山研究所                                イタリア

ウィリアム・エル・エルスワース              米国地質調査所                                              アメリカ合衆国

橋本 学                                           京都大学防災研究所地震予知研究センター     日本

島崎 邦彦                                        東京大学地震研究所                                       日本

デーヴィッド・ベア−ジョーンズ            ビクトリア大学・統計研究アソシエイト有限会社    ニュージーランド

(委員長)

 

1.2 統計地震学研究グループ

 

尾形 良彦                                        統計数理研究所                                              教授

遠田 晋次                                        統計数理研究所                                              客員教授(2005)

                                                        産業技術総合研究所活断層研究センター         チームリーダー

村田 泰章                                        統計数理研究所                                              客員助教授

                                                                                                                              20032004

                                                        産業技術総合研究所地質調査総合センター     グループ長

岩田 貴樹                                        統計数理研究所                                              プロジェクト研究員

                                                                                                                              (2005)

庄  建倉                                         日本学術振興会                                              外国人特別研究員

                                                                                                                              (20012005)

楠城 一嘉                                        日本学術振興会                                              特別研究員(PD)

                                                                                                                              2003−)

若浦 雅嗣                                        総合研究大学院大学複合科学研究科              大学院生

田中 潮                                           総合研究大学院大学複合科学研究科              大学院生

忽那 映子                                        統計数理研究所                                              研究支援推進員

 

1.3 評価項目

 

(1)  学術的活動

  (a) 統計学上の成果と貢献

  (b) 地震学上の成果と貢献

  (c) 共同研究

(2) 社会的貢献

(3) 次世代への展開

(4) 将来の活動計画の見通しと提案


はじめに

 

1. 評価委員会は2006116 (月曜日) に統計数理研究所を訪問し、北川所長、松浦律子博士、尾形良彦教授、庄建倉 (J. Zhuang) 博士、岩田貴樹博士および楠城一嘉博士の報告を聴取した。評価委員会は月曜日の夕方に北川所長と統計地震学研究グループに、評価の概要を口頭で与えた。その翌日には、評価委員会は半日の会合を行い、評価報告書の構成について検討し、その後、尾形教授に出席してもらい、具体的な項目について試問を行った。遠田晋次教授と村田泰章博士は出席することはできなかったが、彼らの論文は評価委員会に提出された。さらに、遠田博士は評価に先立ち開催された統計地震学ワークショップの実行委員として主要な役割を果たしており、その際、各評価委員と非公式に会見している。委員会が検討した資料の詳細と委員会への報告の詳細の概要は、付録2に示す。

評価報告の本体は、ほぼ評価項目の順に、セクションに分けて記述されている。

 

2. 評価委員会の各委員は、北川所長に対して、本評価に参画する機会を頂いたことに感謝の意を表すとともに、所長をはじめ研究所職員および統計地震学研究グループに対して、丁重な対応について感謝の意を表する。さらに、委員は評価の実施に先立ち、十分に配慮し徹底した評価資料を準備していただいたことに感謝する。

 

学術的活動の質とインパクト

 

3. 評価委員会が評価依頼を受けた業績は、2003年から2005年の間に発行または発行予定になった論文、学会予稿、および評価委員会において委員に口頭報告された研究を対象とする。資料の概要は付録2に示す。業績は統計学と地震学の二つの観点から別個に評価し、最後に総括を示す。

 

統計学的理論と方法

 

4. 統計地震学研究グループの業績は、特に空間統計と点過程などの分野で、統計学界において高く評価されている。本グループの業績は、特定の分野(地震学)での必要性によって新しい統計手法の発展が導かれた、一つの実例となっている。地震学では、日本およびその他の地域において、20~30年前から広範囲かつ高精度の地震カタログが利用可能となっている。このカタログから導かれる地震発生の特徴として、高次元性、ベキ従属性、高い集中性および近似的な自己相似性があることが挙げられる。このような特徴のため、従来の統計手法の枠組みでは解決できない問題が生じ、このような対象を効果的に解析するための新しいモデルと方法の開発が求められるようになった。尾形教授と彼の同僚は、これまでこれらの問題を解決するために基礎的な研究を続けてきた。ファイナンス、医学、人口問題など他の多くの分野で、同様なデータが得られるようになっているため、これら他分野の研究者と有効に交流していくことができるようになれば、本研究グループの研究成果の重要性は高まっていくであろう。本グループの成果は、観測データに基づいて行われる研究分野で、統計的方法がいかに役立つかを示す顕著な実例であるとともに、地震学研究者と共同した本研究グループの研究能力のあかしである。

 

5. 尾形教授の論文は、Journal of the American Statistical Association, Biometrika, Journal of the Royal Statistical Societyといった権威のある論文誌、および点過程や空間統計に関する専門誌や研究集会の報告集に掲載されている。尾形教授が統計学に関する国際的な会議に頻繁に招聘されていることは、この分野での権威であることを証明している。数年前から統計学が専門の庄博士が加わって研究しているが、最近の研究グループでは、統計学の側面というよりも地震学の側面の研究者が加わっている。概して、本研究グループの研究活動が拡大するに従い、統計学において先進的なアイデアを開拓していくこと、このアイデアが地震学や他の分野の研究に有効に利用できることを示すこと、また本研究グループの統轄と管理を行うことなど、これらの非常に大きな負担が尾形教授の双肩にかかっている危険性がある。この観点から、地震学だけではなく、統計学の面についても、中堅の同僚を加えれば、本研究グループの体制が強化されるものと考えられる。

 

6. 本研究グループの成果の中で、特に重要な3つの貢献が挙げられる。空間的に不均質で時間的に急速に変化する時空間点過程モデルのパラメータのベイズ的推定方式の開発 ([2][3])、集中型の点配置データをクラスタ成分とバックグランド成分に分離する確率的除群アルゴリズムの開発 ([4][5])、そして時間ないし時空間点過程モデルと実際のデータとの食い違いを研究するための残差分析に関する方法の開発 ([1][2][5]) である。これらは、始めはETAS (epidemic type aftershock sequence) モデルについて考案された方法であったが、かなり広汎な種類のモデルや多くの別種の状況に拡張して適用できるものである。たとえば、確率的除群法は、時間の経過とともに空間クラスタが形成されるような多くの状況に対して、潜在的に有効である。また、本研究グループの残差解析法に関する成果は、現在の空間統計学の中心的研究課題に対する先駆的な貢献をしているだけでなく、研究者の興味を集めている問題に対して重要な貢献を果たしている。

 

7. 上記の3つの研究のすべてにおいて、本研究グループの成果は第一級のものであり、本研究グループを高次元点過程問題を取り扱う実用的な統計手法の開発を世界的にリードする研究グループのひとつと位置づけている。彼らは、これら以外にも有益な成果を得ている。たとえば説明変数に誤差を含む更新過程モデルの取り扱い、および内部発生的な変数 (クラスタ)と外因的変数 (外的変数の予測式) を組み合わせによる点過程データの取り扱いなどである。GPSやその他の衛星観測による地殻変動データが蓄積されている。その結果、地震学における近い将来の研究の標的として、地殻変形の解析やそれと地震発生データと組み合わせた解析が行われることが予測される。統計数理研究所、とりわけ統計地震学グループは、このような試みに取り組むための主導的な役割を演じるように戦略的に位置づけられることになろう。

 

1.4 地震学的理論と方法

 

8. 統計数理研究所の統計地震学グループは、地震活動の時空間変化をモデル化することにおいて、精力的で、業績の多い先進的な研究グループとして、地震学界において国際的に認識されている。研究者の数は少ないが、グループの研究発表件数はかなり多い。博士研究員が加わったのが2004年または2005年の年度末であったにもかかわらず、論文リストによると、グループの中心的な4人の研究者は、2003年から2005年の間に32件を超える論文を発表している。高い水準の研究活動が維持されていることは、投稿論文または印刷中の論文の数に現れている。本研究グループが研究論文を投稿している学術誌は、国際的に高い水準をもち、研究内容に適合し、研究成果の公表に有効で、他の地球物理学の研究者との交流をはかるのに適したものである。

 

9. 地震学の観点から、本研究グループの作成した評価資料レポートで「目標」または「動機」として掲げられた課題は、非常に重要で、国際的な地震学の研究グループから注目され、研究を引き出すような優先度の高い課題に絞られている。目標はロバストであり、関連分野の先進的な研究を誘導することのできる適切性がある。これらの課題は地球物理学の多くの研究者が取り組むべきものである。

 

10. 地震活動の時空間変化の解析に関する研究成果は特に優れている。本研究グループは、過去に遡った場合及びリアルタイムのいずれの場合においても非常に重要で実用的な解析を可能にする有用なモデルと計算ツールをいくつか開発している。これらの中でも特に重要なのがETASモデルで、地震活動パターンを解析し、バックグランド地震活動とその空間分布を識別し、余震や前震の発生強度を定め、地震発生率の時空間変化をモデル化することができる強力なツールである。今やETASモデルは、世界中のいろいろな地域(イタリア、ドイツ、フランス、スイス、アメリカ合衆国)で使われ、このことで一層、大学や研究機関との国際的な連携が促されている。このモデルが世界各地の異なった変動帯における多数の地震活動に適用されているという事実は、モデルの完成度が高く、想定された研究目的を達成するのに有効であることを示している。確率的除群とHIST (階層的時空間) ETASモデルの更なる発展も非常に重要で、促進されるべきである。

 

11. これらの研究から得られた重要な成果のひとつに、統計モデルを診断ツールとして使い、地震パターンの異常な傾向やその他の特徴を抽出することがある。ETASモデル自体は、余震活動をはじめとした地震活動の異常な特徴を検出するため、及び地震活動の静穏化を同定し定義するための非常に有用なツールである。実際の地震の発生率とETASモデルにより予測された発生率を比較することは、地震活動変化を定める過程を物理学的に解明する興味深い手がかりとなる。地震の発生率変化と地殻の応力変化との間に関連性があることを本研究グループは強く主張し、最近の発表論文でも指摘している。特に、ETASモデルを基準にして定義される相対的な静穏化現象は、地震学の分野で議論されている「ストレスシャドー」の現時点における最も適切な定義と物理学的な解釈を与えている。言い換えると、相対的静穏化現象がストレスシャドーの最もロバストな定義であり、提案された数値的な取扱いが地震の発生率低下を識別するための最良の解法である。これは、関係分野の学界でその妥当性が認識されている。

 

12. 本研究グループは、新たな発想を展開することに関して良好な成績を持っている。たとえば、地震により引き起こされる応力変化に由来する地震活動の変化を物理学的に解釈することは、非常に重要で、地震学および地球物理学の多くの研究者の関心を集めている課題である。評価委員会は、本研究グループに遠田博士が関与していることを高く評価する。彼は、クーロン破壊ストレスのモデル化、及び岩石実験から導かれた摩擦法則に基づく物理学的モデルを使った地震の発生率変化の理論的予測により、すでに専門分野に多大な寄与をしている。たとえば、詳細な統計解析を実施するために、クーロン破壊ストレスの変化パターンを参照し標的領域を選択する本研究グループの研究結果は、非常に興味深いものである。

 

13.  尾形教授が開催した第4回国際統計地震学(STATSEI-4)ワークショップでも証明されたように、本研究グループの研究結果の成功は、国際的な主要研究者により認知されている。評価委員会の全委員は、このワークショップに参加することで、各参加者の本研究グループの研究に対する評価の印象を感じ取るとともに、本研究グループの若手研究者の発表を聴取する良い機会を得た。評価委員会としては、本研究グループは関連分野の学界に大きなインパクトを与え、この分野を新しい方向へリードしていると考えている。

 

14. 若手研究員の研究成果の水準は高く、将来も約束されている。特に、庄(Zhuang)博士は新しい側面の研究に大きな貢献を果たし、本研究グループの研究テーマに深く参画している。その後参画した博士研究員たちも、将来が約束され、熱心で、高い意欲の持ち主である。彼らはそれぞれ別々の研究分野から本研究グループに参加し、本研究グループの戦略的研究計画に参加している。たとえば、岩田博士の地球潮汐の地震誘発現象の研究は統計解析の成果としてはしっかりしているが、物理学的な解釈に関して研究の余地がある。地震の誘発メカニズムの研究は非常に重要であるが、現在の段階では、研究内容は十分現実的なものとなるに至っていない。恐らくこの研究の将来的な方向は、任意の応力率のもとでのDieterichのモデルとETASモデルを統合したものに発展していくと考えられる。楠城博士のPattern Informatics (PI) による地震活動異常の研究は、本研究グループ全体の主要な戦略的研究計画とは少し外れている印象であるが、PI法とETAS法を系統的に比較研究することは非常に興味深いと考えられる。全般的にみて、評価委員会は、さらに新しい学生や博士研究員が本研究グループに参画し、新規な視野や方向性 (たとえば、地震災害の時間依存性) へ展開されることを期待する。

 

15. 地球シミュレータに対する本研究グループの関与や共同研究について、松浦律子博士により評価委員会に報告された。興味深い研究計画であり、この共同研究が推進される必要がある。このことからも提起されるように、より広い課題として、統計数理研究所の研究グループが地震予測の有効性に関する評価やGPSデータの解析などの問題について、どのように国内の他の研究グループと共同作業できるかということがある。このことは報告の後半で詳細に採り上げる。現在の仕事の状況と周囲からの要請に対して、現状の陣容は小さすぎるため、このような方針を実施するには、本研究グループの規模を大きくする必要がある。

 

2 共同研究活動と社会的貢献

 

16. 本研究グループは国内および海外の統計学や地震学の先導的な研究者と有効な共同研究を行っている。さらなる共同研究が期待できる。特にETASモデルや本研究グループが開発したその他の統計モデルの実効性を試してもらうことが考えられる。本研究グループの主要な社会的貢献は、一般的な意味において、地震活動の解析に対して応用可能な統計ツールを次々と開発してきたことである。 実際、尾形教授自身は地震予知連絡会の委員としてその解析で活躍しており、本研究グループが開発したETASモデルやその他の統計モデルは、気象庁、地震調査委員会、地震防災強化地域判定会が実施する、地震活動度に関する業務解析や評価に利用されている。以下に、これらの点について詳述する。

 

2.1 研究所の対外的活動

 

17. 本研究グループは、長年にわたり、Vere-Jones教授 (ニュージーランド)Baddeley教授 (オーストラリア)Ma Li教授 (中国)Chen教授 (台湾)Console博士 (イタリア)Hainzl博士 (ドイツ) 等の、世界のトップレベルの統計学者や地震学者との共同研究を行っている。日本国内では、本研究グループは、京都大学の尾池教授と片尾助教授や東京大学地震研究所の島崎教授が主宰する地震研究者のグループ、防災科学技術研究所の井元博士、気象庁気象研究所の前田博士など地震研究者と定常的に交流している。さらに、東京工業大学の間瀬教授のような統計学者とも密接な連携をはかっている。

 

18. 評価に先立って行われた第4回統計地震学ワークショップ(Statsei4)では、研究所間の交流をはかるという点で、非常に重要な機会が提供された。本研究グループはDieterich教授を招き、断層の摩擦構成則に関するチュートリアル講演を依頼した。これは本研究グループとDieterich教授や断層の振る舞いから地震活動度をモデル化すること考えている研究者との間で、将来、実りある共同研究が行われることを展望したものである。日本をはじめ、中国、フランス、ドイツ、イタリア、メキシコ、ニュージーランド、スイス、台湾、イギリスおよびアメリカ合衆国などの関連機関から65人を超える研究者が、3日間の会議と1日間の巡検旅行に参加した。会議でのいくつかの講演では、本研究グループに対して、現在進行中または計画中の各種の地震モデルのリアルタイム予測試験に参加することの要請があった。Wiemer博士はヨーロッパでの地震予報モデルの実験の枠組み(NERIESプロジェクト)について紹介し、Schorlemmer博士はカリフォルニア州における各種の地震ポテンシャルモデルの予測試験に関する地域別地震尤度モデル (RELM) プロジェクトの初期的な取り組みの要約について講演し、地球的規模の地震予測可能性の共同研究 (CSEP) にプロジェクトを拡張することに言及した。現在、17種類のモデルについて検討中で、その中にはUCLAの研究グループからETASモデルを含めることが提案されている。さらに、本研究グループが開発したソフトウェアを収録したCD-ROMがワークショップの参加者に配布されたことで、参加者と本研究グループとの共同研究開始の機会を増すばかりでなく、本研究グループが開発した統計ツールの普及が促進されることが期待される。将来開催されるワークショップでは、初心者に対するトレーニングセッションの開催も検討されるものと考えられる。

 

19. 本研究グループは他の研究グループと公式の共同研究協定を締結して連携しているわけではない。しかしながら、過去には、例えば、ニュージーランドのVictoria Universityとは、統計地震学研究の促進のために、研究所全体として公式な共同研究協定を締結したことがある。現時点では、Statsei4ワークショップの成功が示すように、本研究グループはこの分野で影響力を持つ主要な国際的研究グループと非公式な共同研究を行っている。公式の研究契約を考慮する場合には、研究所が実務面で強力に支援するべきであろう。

 

2.2 社会的貢献

 

20. 尾形教授は地震予知連絡会の委員で、3ヶ月ごとに会議に参加し、日本における最近の地震と地殻の活動について、意見交換と情報交流を行っている。尾形委員は最近の幾つかの大地震において断層の前駆的非地震性すべりによる地震活動の活発化や静穏化に関する解析を報告している。非地震性のすべりの兆候を示す証拠は未だ確認されていないが、この指摘が他の委員から注目を集めている。地震性のすべりによる地震発生の誘発や抑制については十分研究されており、予知のために、それほど顕著ではない変化が探されている。GPSやその他の地殻変動データの解析は、本研究グループの次の研究目標であり、地震活動の変化を用いた地震前のすべりに関する現在の研究に効果的につながるものと考えられる。地震活動度の変化から独立に推論される非地震性のすべりの存在を地殻変動データが示したならば、地震予知における画期的な発見となるであろう。

 

21. 気象庁 (JMA) は、地震活動の業務解析のために尾形教授が開発したETASモデルを利用している。ETASモデルは、とりわけ群発性の地震の解析に効果的である。地震防災強化地域判定会の月例の打ち合わせ会で、ETASモデルに基づく東海地方の地震活動度の残差解析の結果が、最近の地震活動の評価結果として定期的に報告されている。日本国内の地震活動と地殻活動を毎月評価する地震調査委員会 (ERC) では、ETASモデルに基づく地震活動の解析が報告されている。

 

22. 大地震が発生した後の余震発生の確率予報は、気象庁と地震調査委員会が発表する。この予報はETASモデルではなく、大森・宇津の公式を使っているが、気象庁と地震調査委員会は尾形教授が開発したパラメータの最尤推定を適用している。地震調査委員会 (2005) は、「全国を概観した地震動予測地図」を公開し、5年ごとに改訂する予定である。この地図には、大地震発生について確率的推定が利用され、主に地震再発の更新過程モデルに基づいて計算されている。改訂のため、確率的推定の不確実性の問題が議論されるであろう。また、古地震データの解析法に関する尾形教授の統計的研究成果が将来の方向性の有用な指針となるであろう。

 

23. 本研究グループのメンバーは、カリフォルニア州のRELMのようなリアルタイム予測や評価法の試験、または欧州のNERIESプロジェクトの計画のような国際的なプロジェクトへの参加要請を受けている。同様な統計モデルや予測の試験プロジェクトの機運は日本国内にもある。このようなプロジェクトへの参画で本研究グループの専門性が求められるが、現在のような人員が限られた陣容では儘ならない恐れがある。

 

3 次世代への展開

 

24. 本研究グループに参加した大学院生や博士研究員に対する質の高い教育訓練が行われていることについて、評価委員会は満足しているが、そのメンバー数が少ないことには不満を感じている。統計地震学の若手研究者は少なく、特に日本国内での少なさを評価委員会は実感した。統計地震学の研究者を増やしていくことが改善面の最優先事項である。当然、このことは本研究グループの努力だけでは、容易に解決することはできない。評価委員会は本研究グループ及び研究所が、学生がこの分野に関心をもつようになる機会を増やすことを提案する。

 

25. 評価委員会は統計数理研究所が市民や若手科学者を対象とした公開講座を毎年開催していることについて注目している。このような講座は、本研究グループの活動を公表する重要な機会と考えられる。統計数理研究所の研究グループ間の調整が必要であるが、評価委員会は一般的な問題として、統計数理研究所および特に統計地震学グループの功績と地震関連科学における成果の重要性について、若手の科学者に実感させる機会をより有効に利用することを推奨する。

 

26. 日本地震学会は、毎年、春季と秋季に大会を開催する。地震学に関するあらゆるテーマについて500件を超える論文が報告される。したがって、統計地震学がこの大会で脚光を浴びることは容易ではない。本研究グループは、この目的で地震学会の提供する機会を利用することができる。地震学会は、学部生や大学院の修士課程の学生を対象とする地震学に関するサマースクールを毎年開催している。サマースクールの主題は、会員からの堤案または要請により選択される。他の学会でも、同様のセミナーが開催される。統計地震学グループは、セミナーの主題として統計地震学を定期的に選択することを、地震学会やその他の学会に依頼することができるはずである。このような活動への本研究グループの参加には、研究所による支援が必要である。

 

27. 若手科学者の関心を集めることには、総合研究大学院大学とその他の大学との単位互換プログラムを利用できる。その最良の方法は、単位互換プログラムを有する大学の学生に対して、連続講義を行うことである。統計数理研究所は総合研究大学院大学の一部の役割を担っており、統計地震学を含む統計学の各種コースが開講されている。残念なことに、現状では日本の大学で統計地震学に関する連続講義はほとんどない。それは、この分野の専門家が不足しているためである。大学の客員教授や非常勤講師は、他大学での講義を行うのによい機会である。本研究グループはこのようなプログラムを使用することを検討するべきと考える。

 


4 将来の活動計画に対するコメントと堤案

 

28. 以上のように、統計数理研究所に属する統計地震学グループは、日本だけでなく国際的にも独特な位置を占めており、その将来の発展については十分考慮して検討するべきである。このグループの役割において類稀なことは、地震データに対して実効的な新しい統計的方法を開発し、この方法が地震学研究における中心的な関心事になることを目指して地震学の専門家と連携してきたことである。このことを実現するにあたって、本研究グループは、統計数理研究所の伝統的な環境と、研究所の研究者や技術者の特別な知識や技術に深く頼っている。また、グループの研究活動を拡張するように圧力をかけてきた地震学コミュニティの中で、本研究グループは十分強固な地位を占めるようになっている。統計数理研究所の数理的な伝統は、最先端のモデリングと方法論的関わる技術的な問題を発見して解決する本研究グループの能力の背景となっている。このグループの役割を持続し強化することは、日本における先端的な研究組織としての統計数理研究所が地震学と社会にかかわる多くの実際的な問題に対して、統計学の観点から助言していくという研究所自体の役割を拡大していくことと同じように重要と思われる。

 

29. 地震学の研究分野は純粋な学問的研究から実際的な応用まであり、それらの目標に対して社会が投資する理由も異なる。社会からの地震専門家に対する大方の質問は、「次の地震はいつ起こるか」、「その大きさはどの程度か」、「被害を最小にとどめるには何が必要か」というようなものに集中する。このような質問に的確に答えることは、現在の我々の知識の範囲を超え、今後もその状況は続くと考えられる。地震学、地震工学および危機管理の専門家は、これらの質問に対する大まかな答えであっても十分な価値があることを認識している。地震調査員会 (2005) によって最近公表された日本における長期間の地震予測は、危険度に対する現状の認識を確率論的な枠組みに統合することの例を示している。地震の脅威を低減させるために、将来に向けた進展には、物理学的モデルと統計学的モデルの結合が不可欠である。したがって、理論面および実際面の問題の両方について、幅広い地震学の課題を十分に理解した統計学者が継続的に必要になるものと考えられる。

 

30. 本研究グループの現在の研究プログラムの枠組みの中で、評価委員会は統計解析により高度な物理的モデルを適用するために、他の分野の研究者との共同研究を促進することを強く推奨する。第一の例として、地球内部で生じている物理現象と関連して、地震活動度の統計学的特性に対する理解を深めることが重要である。統計地震学は地震をランダム過程の一事象として取り扱い、観測地震学は個々の地震の特性に絞って研究する傾向がある。いずれの取り組みも重要であるが、特に日本においては地震関連科学の研究者の統計地震学への人気は高くない。この原因のひとつとして、個々の地震と事象群としての地震の関係に対する物理学的理解が十分でないことが挙げられる。この点から、地震活動度のモデルに、クーロン破壊応力と速度-状態依存摩擦法則を取り入れた統計地震学グループの取り組みは、先見性に富み、有益な結果が得られることが期待される。この取り組みは、強く推進していくべきである。もちろん、これは十分注意深く行う必要があり、現段階では未解決な課題もあり、地震学の他分野の研究者とともに検討を深めていく必要がある。これ以外に重要なものは、尾形教授により進められている、GPS時系列などの地殻の変動に関する研究で、地震活動度を補完する静的な歪の蓄積過程を明らかにするものである。評価委員会は、本研究グループがこの分野の研究者との連携を深め、地震活動度と地殻変動を同時にモデル化することを推奨する。

 

31. 評価委員会は、モデルと予測を厳密に評価するための研究を一層推進することも、強く推奨する。地震活動度の階層的時空間モデル (HIST) は、将来が約束され、この分野の最先端の研究である。ひとつの例として、日本で情報に富んだ新しい地震カタログが与えられれば、クーロン破壊応力モデルを、入念に検討された評価実験のために十分用いることができる。仮説をつくるには過去に遡った評価実験が必要であるが、現状では、将来の予測に実効性のある評価実験が強く求められている。このようなプログラムは、欧州、ニュージーランドおよびアメリカ合衆国で初期的な開発段階にある。本研究グループが国際的な予測評価のプログラムに関与することにより、このような取り組みの統計的な厳密性が改善されるであろう。

 

32. さらに、統計数理研究所は、地震の問題に対して、あらゆる段階での関与が可能である。統計数学には、確率論的地震危険度解析のみならず、被害予測、リスク軽減および意志決定解析への適用などの分野において主要な役割を果たしうる。地球科学者の役割は、概して、地震発生の緊迫度とそれによる地震動の激しさを予測して外力を評価することに限定される。地震工学者は、建物の性能を表す確率論的モデルを開発することにより、地震動が或るレベルを超えたとき、対象とする建造物の振る舞いを明確にすることを目標とすることが多い。経済学者やリスク管理者は、社会に対する危険性を評価するときに、地球科学と工学データを組み合わせることにより、リスクモデルを作り出す。統計学者は、これらいずれにも対応可能で、既成分野の範囲を超えた知識を動員して取り組むことができる。したがって、統計数理研究所には、地震発生や関連事象に対する新しいモデルを開発するだけでなく、関連する幅広い社会問題に対応することのできる、潜在的役割がある。現在の陣容では統計地震学グループには過大な負担であるが、研究所全体として配慮するべき問題である。

 

33. 地震活動の統計的モデルは、日本においては既に公的な政策決定のための解析に適用されている。気象庁は、ETASモデルを使って、日本における大地震に引き続き起こる余震の評価を行っている。地震調査委員会により20053月に公表された全国を概観する地震動予想地図は、地震源に対して、単純な更新過程モデルを適用することで作成されている。これらのモデルの価値が証明されることで、地震学と統計学の両面ではるかに包括的に取り扱われていくものと考えられる。地震を点とし、独立同分布する確率変数であると近似することは、確率論的地震危険度予測をするにあたり有用である。しかし、地球物理学と地質学のデータを組み合わせ、地震の過程についてより現実に近い統計的モデルと物理的モデルが得られれば、より良い結果が間違いなく得られる。

 

34. 統計数理研究所が関与すべき一例を象徴的に言えば、社会にとっての心配事は、断層が破壊することよりも、地表が揺れることである。地面の揺れの強さの予測は、あらゆる建造物の耐震設計要件に影響する。日本では毎年、地震による人命と財産を保護するために、建築技術に何兆円も投資されている。十分な対策が行われないことの損失は高いが、より多くを期待するには多額の費用が必要になる。特に日本においては地震動の新世代のデータを集めるK-NETが作られているため、地面の揺れに対する優れた確率論的モデルが実現すれば、耐震安全性に対する費用面と実際面の両方に与えるインパクトは極めて大きい。

 

5 総括と推奨事項

 

35. 評価委員会は、統計地震学グループによる研究成果が、学術的水準と科学的価値という点で優れているということには疑いの余地がないと考えている。本研究グループは、統計学の分野と同時に地震学の分野の研究動機から始まり、数々の重要な成果を導いている。構成するメンバーと特に尾形教授は、地震データのモデル化と解析に革新的な研究を行っていること、その洞察力、及び二つの分野の研究者と共同研究を推進する能力をもつ点で、両方の学界で高い評価を受けている。その業績は継続的に推進されるべきでありその支援が必要である。

 

36. 評価委員会は、研究所により実施されている研究の概要について知ることに非常に興味があったが、その広がりと深さに感銘を覚えた。社会における多くの重要な問題が、関連する分野の専門家とともに研究することで解決されていく。評価委員会は、リスク評価とリスク管理のプログラムについて格段の興味を覚えた。金融および環境のリスクに関する研究は、複雑化と相互関連を深める世界経済において、情報に基づく決定に関して重要な貢献を果たしている。補足的プログラムである地震リスクに関する研究が、社会に対する多大な報酬をもたらすのは当然であるように思える。日本ほど大勢の人命や国民的な財産が地震のリスクに晒されている国はない。地震からの市民保護、耐震設計、強度不足の建造物とライフラインの耐震補強、津波と地震の警報システムなどの地震に対する防備や地震学や工学の研究に対する投資は類い稀であり、将来に向けて持続的に拡大すると予想される。公共的な施策は、最新の科学的な研究成果に基づいて策定されるのが当然である。研究所が、全体として、このような状況へのさらなる貢献の可能性を考えて行くとよい。

 

37. 本研究グループには、その組織を拡大させることと、優秀な大学院生を引き付け訓練することに関する大きな難しい問題が存在する。評価委員会は、学生や博士研究員による優れた研究を見てきたが、重要性が高まる学問領域であるにも関わらず、十分な数の学生を訓練していない。同時に、新しい統計モデルと方法の開発と厳密な評価モデルに対するプログラム開発について、尾形教授を補佐する統計学を専門とする中堅の指導的な研究員も必要である。

 

38. 評価委員会は、以上のことが統計数理研究所の経営幹部が重大に考慮する必要のある問題で、統計地震学グループのみの問題ではなく、広い意味で工学、保険およびリスク管理に統計数理研究所が関係することを推奨する。

 


参考文献

 

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付録 1: 外部評価スケジュール

 

場所:統計数理研究所会議室

日時:2006116

10:00 – 10:10 所長の挨拶と概要説明

・評価の目的

・評価項目

 10:10 – 10:20 準備会議

                            ・委員長選出

                            ・スケジュールと評価方法の検討

 10:20 – 10:40 松浦博士へのインタビュー

 10:40 – 11:40 尾形良彦教授による研究・成果報告

11:40 – 12:20 グループメンバーによる研究・成果報告

 13:30 – 13:50 グループメンバーによる研究・成果報告

 13:50 – 15:00 委員からの質問及び委員とグループメンバーの討論

 15:30 – 17:10 委員の会合

                            ・評価の検討

                            ・評価報告書についての相談

 17:10 – 17:30 評価結果の研究グループ及び所長への講評

日時:2006117

15:30 – 17:10 委員の会合

                            ・評価の検討

                            ・評価報告書についての相談

                            ・尾形教授と委員との討論及び講評

 

付録 2: 委員会に提出された研究資料

(注意:次ページの目次のページ番号は委員会に提出された資料につけられた番号である。)


 

統計的地震予測の組織的研究(2003-2007)の中間報告

地震予測解析グループ

予測発見戦略研究センター

情報・システム研究機構  統計数理研究所

目次

研究動機    ……………………………………………………………………………………………… 2

 (1) 地震発生データ    ……………………………………………………………………………… 2

 (2) その他の地球物理学的データ   ………………………………………………………………  2

 (3) 点過程モデル    ………………………………………………………………………………… 2

 (4) 地震・余震の確率予測  ………………………………………………………………………… 3

 (5) 物理的モデルと地震活動の接面の解明    …………………………………………………… 3

 (6) 時空間点過程モデル   …………………………………………………………………………  4

 文献   …………………………………………………………………………………………………  5

研究の目的    …………………………………………………………………………………………… 6

研究実施計画 2003-2007    …………………………………………………………………………… 7

  実施体制  ……………………………………………………………………………………………… 7

研究成果 2003-2005……………………………………………………………………………………… 8

 2003-2005年 主要結果  ……………………………………………………………………………… 8

  (1) 大地震による周辺部へのコサイスミック地震活動変化と地殻のストレス変化   ………… 8

  (2) 余震活動の相対的静穏化現象とこれに関するメカニズム …………………………………… 9

  (3) 地震活動の前駆的な相対的静穏化および活発化と地殻のストレス変化 ……………………10

  (4) 時空間ETASモデル  ………………………………………………………………………… 12

  (5) 物理的素過程モデルと地震活動の接面の解明  ……………………………………………… 13

  (6) 地震の大きさ分布と地震検出率の同時推定および余震の確率予測  ……………………… 14

  発表論文2003 2005 …………………………………………………………………………………14

    査読付き論文  ……………………………………………………………………………………… 14

    主な報告など  ……………………………………………………………………………………… 16

本プロジェクトの今後の展開について  ……………………………………………………………… 18

  (1) 静穏化現象のシナリオ追求による大地震・大余震の予測   ………………………………… 18

  (2) 時空間ETASモデルの効果的運用のための再モデル化   ………………………………… 18

  (3) 予測としての前震の識別確率   ………………………………………………………………… 19

  (4) ストレス変化と地震のメカニズム分布の変化 ………………………………………………… 19

  (5) 長期予測‐ベイズ的確率予測   ………………………………………………………………… 20

  (6) 各種データの有効利用と品質管理の為のモデリング   ……………………………………… 20

   文献  …………………………………………………………………………………………………… 20

研究動機

(1) 地震発生データ

気象庁の震源カタログは他の各種地球物理データの中でも収録が最も長い期間にわたり、検知能力の差はあるが地域を選ばず記録されている点で貴重である。特に一元化後の震源カタログは検知精度が飛躍的に上がり地震活動の詳細な研究が進むことが期待される。これを有効につかう手だてはいくらでもあろうが、特に地震活動の統計的研究にもっと組織的に使われてもよい。これを有効に使う鍵は、研究仮説や目的に応じて、点過程モデルを構成し当てはめ、そこからもっと詳しい情報を引き出すことである。またF-netなどの発震機構データはストレス変化の議論に重要な役割を占めてきている。

(2) その他の地球物理学的データ

この他にも地球電磁気や地電流の変化、井戸の水位、地球化学成分の量的変化などの異常変化を客観的に分類したものと、実際の地震活動との量的関係について確率予測に有効に結び付けられるか、その様な研究が進められると考える。その為には、これら諸データの正常な推移がどのようなものなのか、その変動がどのような物理的・化学的変数で説明されるものなのか、これらの定性的な研究にのっとり、統計的入出力システムを構成しパラメータを調節し定量的な研究を進める必要がある。例えば井戸の水位、歪み計や傾斜計、GPSなどの測地的データは気圧、降雨量、地球潮汐、海洋潮汐、地震後余効変動などに関係しているのは明らかであるが、その時間遅れやサイズなどの量的関係のみならず空間的相関や非線型性は地域性・個性に依存してモデル化し調節せねばならない。その上で、これらの異常現象と地震の発生の確率変動への効果の有意性を検証するためには特有の統計モデルが有効である。

(3) 点過程モデル

点過程。点過程は地震発生のように突発的な確率的現象を抽象化した数学的モデルであるが、これが地震活動の研究に有効になりえた理由は1980年代頃から発展した「条件つき強度関数」によるモデル化と計算機環境の発展による最尤法の実用化である。条件つき強度関数は、ある時間や場所に事象(点)の発生する強度(確率の微分)をそれまでの履歴や他の情報で予測するという観点から定義された点過程の基本概念である。これを統計的予測点過程モデルとし最尤法で推定、Thinning 法で点過程エベントの発生シミュレーション[Ogata, 1983]、そして「残差」診断解析 [Ogata, 1983, 1988; Ogata and Shimazaki, 1984; Ogata, 1999] などの統計方法の進展が地震活動の解析に広い可能性を示しつつある。点過程の統計解析プログラム集としてはTIMSAC84 [Akaike et al., 1985] IASPEI Software Library SASeis [Utsu and Ogata, 1997] が利用可能である。

ETASモデル。ETASモデルは元来、一般地震活動を表現するために、余震減衰の改良大森関数の重ねあわせたものとして創出されたものであるが、余震活動そのものを純粋な場合から群発型の複雑な経過までを量的に良く表現できる。また別の点過程モデルによって、異なる地域における地震活動間の因果関係(相互作用)の検証、季節性・検知能力や応力場の変化など第3因子の変化の探索などができる。この様に目的に応じて条件付き強度関数による自在なモデル化が可能である。

ETASモデルによる残差解析。余震発生の連鎖性・集中性は断層内のすべりに伴う急激で局所的なストレス変化による誘発のためであるが、 余震の断層群がフラクタル的で複雑なため膨大な数の小断層破壊の記述は難しく、そのため余震を予測する物理的モデルが難しい。これに対して、 統計力学の様にマクロな記述の、余震の経験則をもとに構成した統計的ETASモデルが必要で有効である。この様に、 データに適合したETASモデルによって余震効果を取り込んで地震活動を予測する。このことによって領域外の破壊やすべりが原因となって広域の相対的地震活動変化を促すストレス増減の変化が見易くなる。

(4) 地震・余震の確率予測

余震予測の帰無仮説モデル確率予測は天気予報の様に常時計算されている必要がある。注目されている地域のみならず、なるべく全体をカバーするようにすることが確率予測の実績評価データを蓄積し改善するために有用である。改良大森減衰公式と Gutenberg-Richter のマグニチュード頻度分布を最尤法 [Utsu, 1965; Aki, 1965; Ogata, 1983] で推定し、これに基づく確率予測 [Reasenberg and Jones, 1989] は既にカルフォルニアと日本で実用化されている。しかし余震についても一般にETASモデルの方が大森・宇津の公式より当てはまりが良い [Guo and Ogata, 1997] のでETASモデルによってより細かな確率予報が出せるようにしたい。ETASモデルを超えるような、おそらく物理的知見を踏まえたモデルの出現は強く待望されるが、その予報の評価は先ずETASモデルと比べられるべきであろう。

余震活動の相対的静穏化。地震活動の静穏化や活発化などは大地震の前兆現象として数多く指摘されてきたが、これらの異常性がどのように大地震の発生に結びつくのかについての研究はあまり多くの事例ではなされていない。余震列を含め重要なのは多くの事例を集めた研究である。Matsu’ura [1986] は大森・宇津モデルをあてはめ余震活動に相対的静穏化が見られる場合、新たな断層破壊を伴う大きな余震が起きる場合を多数の事例を挙げている。その後兵庫県南部地震の最大余震の発生の事前に予測をした [松浦ほか, 1995] が、現在までこれが実用的なものとなるに至っていない。その一つの理由は、前述のとおり、多くの余震は大森・宇津(改良大森)公式より複雑であるものが多い[Guo and Ogata, 1997]ということである。

Ogata [2001] は日本における76個の本震について、異なる下限マグニチュードの259例のデータについてETASモデルを当てはめ解析している。そして余震活動に相対的静穏化が見られる場合、正常な減衰過程が継続中である場合より、新たな断層破壊を伴う大きな余震が起きる可能性が高い。その際特に注意しなければならないのは余震活動の静穏化の有意性を判定するにはCHANGE-POINTに関する判定 [Ogata, 1992, 1999] をする必要があることである。さらに、静穏化が長期間に及ぶと、余震域近傍(たとえば200km以内)では6年内の期間に、本震と同規模以上の地震が起きる発生確率が、その他の場合より数倍以上高い。余震の発振機構のデータが十分蓄積されつつある途上なので、その物理的メカニズムの解明はこれからの課題である。

相対的静穏化現象と近辺の断層内の先行すべりとの関係このような現象のメカニズムの可能性として、余震域近傍の当該断層内において先行すべりがあったと仮定して、これに伴う応力変化のため余震活動の低下が起きたと考え、クーロンの破壊基準の stress-shadowと余震活動の相対的静穏化の時空間パタンとの対応がつくかを調べてみることは意味がありそうである。余震群の大勢とプレスリップの断層メカニズムは、それぞれの本震とほぼ同様の震源メカニズムを持つものと仮定してもよいだろう。

(5) 物理的モデルと地震活動の接面の解明

外因性ストレス変化と群発地震活動。火山性の地震や各種群発地震は傾斜計や歪み計の変化に同期している事が観測されている。地球潮汐の変動と地震活動が時や場所によって同期したりすることも数多く報告されている。応力の蓄積と地震発生の力学的メカニズムの研究 [Dieterich et al., 2000; Toda et al., 2002] も急速に進んでいる。Iwata [2002] は鉱山の山はね(AE)発生データによる発生頻度と地球潮汐の月齢成分の因果関係を求める点過程モデルを作成し、解析をしたところ、因果関係の量的な知見が得られた。現在十分な密度のGPS観測網によって応力分布の時空間変化が捉えられる様になってきている。この様な地下の場変化の物理モデルと地震活動を結び付ける点過程統計モデルの作成を通じて震源カタログなどの地球物理各種データとの相関・因果関係や時間的遅れの統計的探索や検証をする。外因性の入出力モデルによる地震発生システムの同定、パラメータの調節については最尤法でもベイズ法でも尤度に基づいており、これが自然で現実的な方法である。

逆問題と可視化。他方、地殻内の各種の変動素過程を捉えることは地表や限られた部分で観測されるデータの逆問題であり、ABICなどに基づく客観的かつ大規模パラメータのベイズモデルの構築と求解によることが多いと考えられる。これらの合理的なモデルによって得られた可視化情報に対応して、たとえばG-R式の- [Ogata et al., 1990]、ETASモデルの p、 α -値などの地震活動モデルの時間・空間パラメータの変化などを求め、アスペリティや断層面の強度分布・応力分布や地震発生準備過程の研究などに資するような計量的把握を進めたい。

ETASモデルと比べた異常活動と地殻の応力変化地殻内における破壊応力の急変と地震活動の活発化や静穏化との相関、それによる大地震発生確率の評価、地殻変動やGPSなどの測地学的データとの関わりなどの研究が急速に進んでいる。一方、地殻や断層群は不均質・非一様・フラクタル性などの極端な複雑性があり、地震活動・発震機構のパタンは場所によって異なる。それゆえ余震群に内在する地震活動と応力変化の詳細な物理学的メカニズムの研究を進めるのは難しい。しかし、各領域の地震活動に統計的計測モデルをあてはめ、マクロ的で精度の良い予測を考え、これと実際の地震活動を比べ、その異常性を測ることによって、微弱な応力の変化を見ることが可能になると考えられる。たとえば地震活動の静穏化現象はETASモデルを物差しにして診断解析によって見ることで異常を感度良く検出できる。とくに、時空間的に広域の地震活動をリアルタイムでモニターするために大規模ベイズモデルによるアプローチを展望している

(6) 時空間点過程モデル

最近の地震カタログの精度向上を考えると、一連の地震活動において時間・空間・マグニチュードやモーメントテンソルなど基本要素間相互関係の統計的性質の探求、地震活動の非定常性や地域的多様性の研究など、それらの基礎研究は大いにその余地がある。とくに時空間データを直接的に解析し、地震活動の地域差などを考慮の上に、これらを物差しに地震活動の微妙な静穏化や活発化の地域や時間の検出などの異常活動の検出能力を拡大する標準的地震活動計測モデルの進展が望まれる。

巨大地震に関わる静穏化は長期にわたるデータの均質性を保持するために、広領域にわたって5.3前後以上の中地震データを使って調べた[Ogata, 1992] しかし、下限マグニチュードが下がるにしたがって解析は難しくなる、データが増えると地震活動のパタンの多様性が強まり、地域内の地震活動を単一の時空間ETASモデル[Ogata, 1998] によって適切に表現できない場合が多くなるからである。かくして地震活動の地域的多様性をどの様に取り扱うかという課題がある。この様な困難からの出口として現在検討を進めているのが、 ETASを基本にした、 大量のパラメータを使うベイズ型統計モデルである.

制限付きトリガーモデル [Ogata, 2001] は各地震についての余震活動の特徴を同じものとしないモデルを考え、最尤法で推定した。これに基づいて、マグニチュードが与えられていない、発震時刻のみのデータから対応する余震数(クラスタ・サイズ)を推定し、これからマグニチュードを推定する方式を提案できる。1926年以来の日本全体での大地震の余震数を推定クラスタサイズで求めマグニチュードに対するプロットをすると陸域の地震と海域の地震では余震生成密度に明瞭な違いが見えた。1995年兵庫県南部地震の余震の空間分布とそれらの余震のクラスタサイズ分布は必ずしも余震のマグニチュードと対応しない。またクラスタサイズの大きな余震の震源は余震域の境界部分に多く分布することが見えた。これを広域なデータについて時空間モデルで表現するにはそのパラメータが場所の関数になるようにしデータの数倍もの更なるパラメータを使ってベイズ的モデリングをする必要がある。

地震の顔。 他方、順調な地震活動であっても、最尤法で求められるモデルは平均的な地震活動の近似でしかない。実際、例えばマグニチュード頻度分布のb値のように、データの下限のマグニチュードが小さくなるに従って隣接地域でも地震活動の違いが浮き彫りになってくる(地域内の不均質性)。これはモデルのパラメータが場所によって有意に異なっていることで認識される。この問題は位置依存パラメータのベイズ型大規模モデルによって攻略でき、ETASモデルも同様の拡張の筋道を辿ることになろう。この様にして求められた地震活動の地域的不均質性や時間的非定常性の変化と地質や応力分布、その変化などの地殻内の物理的諸過程との対応の探索を進めることになろう。

文献

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研究の目的:

(1) 地震活動を計測する統計的時空間モデルの開発を進める。地域(空間)的多様性・不均質性や時間的非定常性の変化を捉えるベイズ型モデルの開発と現実的な推定法の研究を進め、地殻内の応力分布や強度分布などの変化の研究に貢献する。

(2)  地震活動の静穏化、空白域、前震、その他異常現象の大地震に対する前兆性の統計的吟味や時空間的特徴の調査をすすめ、応力場などの地下の物理場の変化などの物理的素過程モデルと地震活動を結び付ける統計モデルの作成とデータのあてはめを通じて、そのシステムを理解するように努める。

(3) 一定のストレス変化のもとで地震活動変化を発震機構データの頻度分布変化に注目した研究を進める。

(4)震源カタログや関連地球科学的データに基づく、客観的でより有効な確率予測用の統計的モデルの開発とその予測評価の研究をすすめる。これを通じて地球物理各種データを入力とし地震活動を出力とするシステムの因果関係の適合度をはかるなどの統計的探索や検証を確率的予測効率の観点から評価する。

(5) 震源カタログや各種地球物理データの時間的空間的均質化、異常値欠測値の補間、地球物理現象の各種ノイズの除去、および各種データ間相互使用のための規格化標準化などデータの品質管理に関わる統計的研究をすすめる。

 

研究実施計画 2003 - 2007

以下の目標を時間の許す限り機会を捉えて着手し達成を追求する。

(1)ETASモデルによる予測地震活動に対する実際の地震活動の逸脱がどの様なストレス変化によってなされたかをより多くの事例データをもとに解析し、このような地震活動の逸脱が地殻歪変化の鋭敏なセンサーとして有用である事を実証する。

(2)このことを特に余震列について解析し、大きな余震(最大余震など)の事前の余震変化について研究する。

(3)地震発生機構(メカニズム)のデータカタログを使用して、前駆すべりやサイレント地震のとの関係での因果関係を論ずる統計モデルや解析法を研究する。

(4)連続的な測地学的時系列データを地震発生に関する説明変数として取り込む為の基礎研究を重ね、地殻場変化の物理モデルと地震活動を結びつける時空間点過程などの高度の統計モデル作成を試みる。

(5)ETASモデルのパラメータ推定やそのグラフィカル表示など、世界の地震活動研究者の使用に耐える頑健なソフトウェアの出版を目指す。

(6)計測技術の制約から本震直後しばらく(1日以内)の余震の大量欠測は避けられない。これは現在、気象庁が実施している余震の確率予報の弱点であるが、これに対して地震統計の経験則から情報を補う統計モデルの作成をする。

(7)余震の時空間データに対して階層ベイズ的時空間ETASモデルで予測される各地の地震活動度と実際の地震発生パタン比較のためモデリングを行い解析する。これらの発生率の比率である相対的地震発生率の変化と、地震発生機構(メカニズム)の時空間的変化を比較し、地球物理的解釈を進める。

(8)階層ベイズ型時空間モデル (Hierarchical Space-Time ETAS model)など、数多くのデータ解析する事によって、多くの地震活動研究者の使用に耐える頑健なソフトウェアの出版を目指す。

 

実施体制:

予測発見戦略研究センター地震予測研究グループ 

尾形良彦,統計数理研究所教授 モデリング研究系 時空間モデリンググループ

遠田晋次 統計数理研究所客員教授,産業技術総合研究所 活断層研究センター, 2005 -

村田泰章 統計数理研究所客員助教授 産業技術総合研究所 地質調査総合センター, 2003 - 2004

岩田貴樹 統計数理研究所 プロジェクト研究員(II, 2005 -

庄 建倉Zhuang Jiancang日本学術振興会・外国人特別研究員, 2001 - 2005

楠城一嘉 日本学術振興会・特別研究員(PD), 2003 -

研究補助若浦 雅嗣(総研大院生)田中 (総研大院生)忽那 映子(非常勤研究支援員)

 

研究成果 2003 – 2005

 

2003 - 2005 主要結果

(1) 大地震による周辺部へのコサイスミック地震活動変化と地殻のストレス変化

大地震のもたらすストレス変化は極めて大きいので、微小地震レベルまでの地震活動を見れば多くの実際に起きた地震や抑制された潜在的な地震の数が大幅に増えるので、ETASモデルなどの残差解析をするまでも無くコサイスミックな活発化や静穏化は明瞭であり、これらがクーロンの破壊ストレス変化と調和的に対応していることも明瞭である。東南海地震 (1944, M7.9)1946年南海地震、そして最近の十勝沖地震について調べた。その 他の日本内外の例として[4] [23] [32] [A8] [A15] [A16] [A23] [A24]も参照。

南海トラフの巨大地震前後の西日本内陸部における地震活動 [12, A4, A28]1944年東南海地震の断層モデルと1946年南海地震の断層モデルによって、西日本各地域でのコサイスミックなクーロンの破壊ストレス変化(DCFS)の分布を調べた。これらの各地域での地震活動の変化はDCFSの値に調和的である。すなわち、正のDCFSの地域ではその巨大地震を契機に活動がトリガーされ活発化し、負のDCFSの地域ではその巨大地震を契機にそこでの活動が静穏化している。これによると、例えば和歌山、丹波、四国での静穏化は南海地震の前駆的すべりでは説明が難しいが、東南海地震のすべりによる歪変化が負に働いたと考えれば説明がつく。他方、和歌山市周辺、四国東部、兵庫県南部などでは東南海地震発生以前から静穏化がみられる。これは東南海地震の断層内または深部などでの前駆的すべりを示唆しているかもしない。

南海地震による正のDCFSの地域で、地震後からの活発化が見られる一方、和歌山市周辺のDCFSは負で、活動は再開しているものの1943年以前の活動度より遥かに低い。とくに和歌山県北部(和歌山市)周辺と中部は時空間(緯度)パタンが北緯34度周辺を境に対照的である。北部は逆断層の割合が多く中部地域は横ずれが多いので、そのような特徴が反映していると考えられる。

紀伊半島南部は東南海地震や南海地震の断層の直上に近いのでDCFSの絶対値は大きいが、東南海地震の場合、正負の境界が微妙である。ここでは他の地域と違って二つの巨大地震をはさむ約2年間の地震活動は減衰することなく活発である。潮岬近辺の有感地震も同様な活動を呈し、最初は余震のように減衰するが、194510月頃活発化し活動は維持されている。これらの活発化が東南海地震の余効すべりによるものか、南海地震の前駆的すべりによるものかどちらでも説明が付けられる。

2003年十勝沖沖地震の周辺部における地震時の歪変化と地震活動変化 [A21, A33]十勝沖地震の直後、阿寒、摩周、足寄町などの火山フロント沿いに浅い活動が活発化した。国土地理院の断層モデルに対して、受け手のメカニズムとして、この地域の震源分布から推定される走行の垂直横ずれ断層群を仮定すると、十勝沖地震のすべりでCFFが増加(数bars)している地域で活発化が起こったと考えられる。次に、日高南部・浦河沖の3次元的な地震活動に次の様な特徴的な変化が見られるすなわち浦河付近の浅い地震活動(0–20km)が活発化し、深さ20–45kmでは静穏化し、45km以深は活発化している。これらを説明しうるものとして、日高衝突帯モデルが考えられる。すなわち、20–45kmでは東北日本の地殻が日高山脈の下に潜り込む北東傾斜の逆断層が卓越し(–1~–5 bars)、その上部の浅発地震では南西‐東北圧縮strike-slip (+25bar)が卓越していると考えられる。45km以深は十勝沖地震の断層の延長深部の境界逆断層型メカニズムで+5 ~ +10bar前後のCFF増加が見込まれる。

ETASモデルで検出されたコサイスミックな静穏化と活発化 [22, A19] 20035月宮城県沖の余震活動は大森・宇津公式が良く当てはまり、 M1.5以上(但し本震後20日以降のあてはめ)では、 宮城県北部の地震(M6.2)による減衰曲線からのコサイスミックな相対的静穏化が明瞭に見られた。一方、宮城県北部・岩手県南部地域の内陸部の地震活動は2003528日の宮城沖地震によってトリガーされ相対的に活発化したことが明瞭で、 2003728日の宮城県北部の前震活動も、 この地域の標準的な活動より相対的活動度(比ETASモデル)は高い。これらの活発化・静穏化は双方の断層メカニズムによるCFFの増加・減少に調和的に対応している。

(2) 余震活動の相対的静穏化現象とこれに関するメカニズムの研究

地震活動の予測と実際の地震発生の相違(静穏化や活発化)を測ることで、地震活動が地殻中のストレス変化のセンサーになる可能性が出てきた。相対的静穏化や活発化は、地震(余震)活動に働くクーロン破壊応力の減少や増大と整合的に対応すると考えられる。非地震性のすべりの所在をつきとめることは大地震の発生の確率予測の効率を上げるのに役立そうである。

南カルフォルニアにおける連発地震の余震活動 [2]。余震活動の相対的静穏化現象のメカニズムとして、余震域近傍の当該断層内での先行すべりを仮定した。これに伴う応力変化のため余震活動の低下が起きたと考え、クーロンの破壊基準(CFF)の stress-shadowと余震活動の相対的静穏化の時空間パタンとの対応を調べた。南カルフォルニアの1992Joshua Tree地震の余震活動および 1992Landers 地震 (Ms 7.3) の余震がETASモデルによる解析の結果、とくに地殻浅部で有意な相対的静穏化がみられ、それぞれ Landers 地震と 1999Hector Mine 地震(Ms 7.1)の断層内部での非地震性すべりによると考えると理論的な整合性が得られる事を示した。Hector Mine 地震の余震活動はデータがあった14ヶ月間正常に推移し、その後現在(200511月)に至るまで近辺で大きな地震は起きていない。

2003年宮城県沖、宮城県北部の余震列 [22, A19]。最初の余震系列の経過情報から、その後に近隣で本震に近い規模またはそれ以上の大きな余震や地震の発生の確率が高まるか否かを判断するのは地震予知の観点から重要である。実際、 前者の地震の余震系列にETAS点過程を当てはめ、 AICによる適合度を比較してみると、 余震活動が静穏化している場合が多い。同様の解析によると2003年宮城県北部地域の前震も静穏化している可能性が大きい。

このほか20035月宮城県沖の余震活動は、 M1.5以上(但し本震後20日以降のあてはめ)では、 宮城県北部の地震(M6.2) によると思われるコサイスミックな静穏化が見られ、 M0以上では前駆的な静穏化も見られた。20035月宮城県沖の本震前、その近傍周辺領域で数ヶ月に渡る静穏化が微小地震では見られる。

2004年新潟県中越地震 (M6.8) の余震活動の特徴 [30]中越地震の後、本震(M6.8)と大きく違わないマグニチュード6以上の大きな余震が頻発した。余震活動は小さな下限マグニチュード(例えばM3.0では余震列全体としてはETASモデルに従い順調に経緯しているように見えるが、 深さ分布の時間経緯は非常に独特である。取りたてて大きな余震が起きていないにも関わらず、 本震発生後半日で深い余震が急に少なくなり逆に浅い余震が活発になっていく。この余震分布の移動現象を説明するものとして20041027日のM6.1の余震の前駆的すべりを考えてみた。深さ7 - 8 km を境として浅いほうで正のDCFF、 深いほうで負のDCFFが見込まれる。ここに示された気象庁一元化震源が大学等の臨時観測で決められた震源より深めに決まっていることを考慮すると、 特徴的な余震活動の推移を説明できるのではないかと考える。何れにしても、今回の事例は、余震全体が ETASモデルで順調に推移していることをもって、大きな余震が当面無いとは言えない事を示すものである。余震活動の静穏化が見られる場合は余震域の大部分がstress-shadowで無ければならないと考える。

福岡県西方沖の余震活動での相対的静穏化とストレスシャドウと前駆すべりのシナリオについて [30, A27, A35] 余震の確率予報によるとM5.5以上の大余震の可能性は高々10%と見積もられていたが、本震後1ヶ月経って420日朝にM5.8の最大余震が起きた。余震の確率予報は余震活動が改良大森関数に則って順調に推移している事を前提としているので、裏を返せば今回の余震活動はそうでなかった可能性が高い。余震活動の静穏化の有無を解析することによって大きな余震または付近での本震以上の地震発生の確率的な予測の利得があがることが期待されている 。本震後2週間に開かれた予知連のため、この余震を解析したところ相対的静穏化が見られたので前駆すべりのシナリオをたて予測を試み報告した。その後さらに週間経って最大余震が発生したが、結果的には、警固断層内でのすべりで無いことを除き、考慮したシナリオのいずれでもなかった。しかし、その発振機構や2次余震の震源分布から、前駆的すべりのモデルをたてると本余震の静穏化や、時間経過とともに余震分布密度が浅いほうに移動していること、海の中道から博多湾のオフフォールト地震活動が最大余震10日前頃から顕著に低下していることが説明可能である。最大余震の余震、つまり2次余震についても解析した。これらの中で最大のM5.0の余震が52日未明に発生したが、前駆すべりを仮定したストレス変化によって二次余震の静穏化や二次余震がM5.0の余震に向かって収束している様子を説明できる。

(3) 地震活動の前駆的な相対的静穏化・活発化と地殻のストレス変化の関係

ストレス変化が小さくても、ETASモデルによる統計解析によって、微小地震の活動の静穏化や活発化が感度良く見られても不思議ではない。そのようなストレス変化の原因は、或る地震の前駆的すべりかも知れないし、いわゆる常習的な間欠的スロースリップかもしれない。問題は、ストレスの急変の源が何処でるのかを見出すことであろう。そのためには考えられるスリップのシナリオを設定し、それによるストレスシャドーを照合させ、その可能性を見積る積極的な予測が望まれる。

2004年新潟県中越地震付近の最近の地震活動 [A27, 29]。中越地震断層の中で仮に前駆的すべりが起きたとすると、ごく小さい変化であるが、断層近地をのぞいてほぼ同様のCFF変化パタンになる。この変化によって理論的に地震活動が抑制されるべき領域と促進されるべき領域によって区分けされた4つの領域について、それぞれの199710月以降の時期の地震データにETASモデルをあてはめてみた。全ての領域で、地震活動に変化があったとする場合の当てはまりが良く、 東と西の領域では地震活動が予測されたものより静穏化を示し、南と北の領域では予測された地震活動より活発化している。これらは各領域でのCFFの増・減のパタンと一致している。ただし、 活動の変化は全く同時というわけでなく、2001年から2002年にかけて起きている。

北日本における前駆的地震活動の静穏化・活発化とストレス変化の関係[21, A21, A25]。北日本の一元化データをETASモデルで解析すると、(11993年北海道南西沖地震の余震活動が1996年に顕著に低下(相対的静穏化)している。この時期で十勝沖地震の震源断層またはその深部での先駆的滑りを仮定すると、余震域はストレスシャドウになっている。同時に、この滑りによって、東北地方内陸部や東北沖プレート境界部のスラスト型メカニズムの受け手断層ではCFFが増加しなければならない。これに調和的に、ETASモデルで(2)東北地方内陸部の地震活動の活発化が示される(相対的活発化)。さらに(31994年三陸はるか沖の余震活動にも相対的な活発化が見られる。

ストレスの急変の源が何処でるのかを見出す手がかりとして発震メカニズムの統計解析を行うことが有望であると考えられる。地震のメカニズム解は概してその地震が発生する地域の応力変化を反映したものと考えられる。想定断層運動を仮定して、各発生地震のメカニズムを受け手としてのDCFF の頻度分布の時間変化の有無を調べるのである。

宮城県沖プレート境界型の大地震までの東北地方と東北沖における地震活動の特徴 [29, A20] 宮城県沖プレート境界型大地震の再来の問題に関連して、本研究では、 気象庁震源データにもとづいて、 1936年(M7.5)および1978年(M7.4)それぞれの地震以前の周辺部における地震活動や余震活動についてETASモデルで解析し、 トリガー作用の作業仮説をたてて宮城県沖地震の中期的な予測に参考になりそうな特徴を模索した。

解析したのは(11937年までの東北地方内陸部の地震活動、(21933年三陸沖地震の余震活動、(31964年新潟地震の余震を含む1980年までの日本海東縁・東北地方内陸部の地震活動、(41968年十勝沖地震の余震活動、(51978年2月の牡鹿半島沖地震の余震活動などである。これらの特徴を要約すると、 宮城県沖の断層モデルにもとづき事前のすべりを仮定したとき、 マイナス数ミリバール程度までのCFFのstress-shadow 地域の広域地震活動や余震活動には相対的静穏化がみられること、 CFFが中立の地域や数ミリバール程度より弱い正のCFFの地域における地震活動や余震活動は順調に推移している。

次に、 来るべき宮城県沖プレート境界地震のプレスリップを仮定してこれまでのケースと同様の特徴が見られるか、 近年のデータを解析してみた。解析例としては、(61983年日本海中部地震の余震を含む日本海沿岸・東北地方内陸部の地震活動、(71994年三陸はるか沖地震の余震活動、(81962年宮城県北部地震余震の最近の活動、(91996年宮城県鳴子町の余震活動、(101998年宮城県南部の地震の余震活動、(111998年岩手県雫石の余震活動、(12200211月宮城県沖の地震の余震活動、 そして(13)一元化データによる宮城県直下深部のプレート境界の地震活動である。これらの活動の静穏化などの特徴は宮城県沖の断層内の前駆的すべりによるものと考えるより、 20035月の宮城県沖地震断層内の前駆的すべりによるものと考えたほうが調和的に説明できる。

2003年十勝沖地震(M8.0)と2004年釧路沖の地震(M7.1)の余震活動および北海道東部の内陸地震活動の特徴について[A12, A27, A28, A33, A36] 200412月(M7.1)の釧路沖地震までの2003十勝沖地震(M8.0)の余震を解析した。十勝沖地震の余震域は大変広く、場所によって余震活動のパタンが異なっているので本震後しばらくの活発な全体の余震活動は一つのETASモデルで当てはめるのに無理がある。そこで12.5日以降から当てはめたところ、20042月末頃まで5ヶ月ほどの当てはまりは順調であったが、その後の余震活動に有意な相対的静穏化が見られた。余震活動の地域性を見るために時空間分布図で調べた。北緯42.1度より南部は相対的に静穏化しており、それより北部は相対的に活発化しているという様相である。

他方、釧路沖の地震の断層モデルで、この付近でのゆっくりすべりを仮定し、受け手の断層群として十勝沖地震の本震と同様のメカニズムをもつ余震に対してΔCFSの図を描いたところ、中央部・南部がストレスシャドウになり北西・北東部がストレス増加ということで、十勝沖地震余震活動の時空間的特徴と調和的である。更にこの同じすべりのモデルによると北海道東部のΔCFS の正負のパタンが2003十勝沖地震によるものと反転する。これに照応するように北海道東部の微小地震活動が2004年3‐4月に活発化と静穏化が反転して、それまで活発化していた西側の部分が静穏化、東側の部分が活発化している。

さらに、釧路沖の地震の余震活動のETAS変換時間による時空間図で見ると余震域西部では相対的静穏化が顕著であるが東部では順調に減少しているという特徴がある。このことを説明できる断層モデルとして余震域南西部での余効すべりが考えられる。

福岡県西方沖の地震 (M7.0) の前の九州とその周辺の活動 [A34]1995年から2005323日までの10年間にわたる九州地方とその周辺の、卓越するメカニズムがあるような、各領域の地震をETASモデルで解析した。DCFSが正またはニュートラルの地域では相対的活発化ないしはETASモデルに則って順調に推移しているが、 DCFSが負の地域では全て相対的な静穏化が有意である。これらの合致は、この10年間の内で福岡県西方沖の地震の前駆的なすべりが進行していた可能性を示唆するものと考える。DCFSの値そのものは極めて小さいが、各地域の受け手の地震断層群の数は極めて多く、地震発生の促進・抑制に働きうるDCFS値の下限が無い限り、統計的に静穏化の効果が有意になりうる。

相対的静穏化・活発化現象と地震のメカニズムの分布 [12, A11, A22, A25, A29] 地震ネットワークの充実によって地震の発生機構が多数決定されるようになった。このような発震メカニズムの統計解析を行うことは地殻のストレス変化を捕捉するのに有力であると考えられる。

2003年十勝沖地震(M8.0)の、北日本におけるいくつかの地域の地震活動の静穏化・活発化を議論し前駆的ストレス変化を前述したが、同時に1995年ごろを境に十勝沖地震の想定断層内または近辺で前駆すべりがあったと仮定して、起きた地震のメカニズムを受け手としたとき、DCFSが負のものに対する正のもの比が顕著に減っている。これはストレスシャドウでは静穏化、DCFSが正のところでは活発化していることを示して、これらに調和的な発震メカニズムの頻度分布の変化を指摘した。同様の発震機構の変化が東海・近畿地方の地震に2000/2001の浜名湖直下のスロースリップ開始前後で見られた。

次に2004年紀伊半島南東沖の地震(M7.4)の破壊断層モデルは、GPSや近地・遠地の地震波解析によって国土地理院、東大地震研、建築研究所などから報告されているが、互いに本質的なところで整合的でない。震源域が遥か沖合であるためもあって、余震の3次元分布の精度が期待できず、明確な結論が得られていない。ところで、余震は本震によってトリガーされるはずなので、余震の多数はDCFFが正でなければならないはずである。断層から十分離れた部分でDCFFが正の出現率は建築研究所モデルによるものが最も分が良い。

(4) 時空間ETASモデル

時空間ETASモデルによる確率的除群法 [13, 25, 33, A17, A18, A27]時空間ETASモデルにもとづいてthinning method を適用する事によって、群れ形成の不確定性を含む客観的な除群アルゴリズムを提案したが、これを用いて時空間モデルの空間や時間やマグニチュードとクラスタサイズのそれぞれの応答関数のノンパラメータラメトリックな診断解析をした。

気象庁データでは概ね適合度が良好であることが実証できたが、マグニチュードに対するクラスタサイズの関係を表記するパラメータと、マグニチュードに対する群れの空間的広がりを表記するパラメータは違うことが示唆された。これに基づいて時空間ETASモデルの改良版を提案した[25, 31]

20世紀全般にわたる台湾気象庁データを確率的除群により解析し、クラスタ強度対常時活動比で台湾とその周辺の地震活動を特徴づけ、テクとニックな特徴との対応を議論した。とくに常時活動の活発な3つの活動域について1999年集集地震(ML7.3)の前30年間の常時活動をみると台湾内陸中部で静穏化が顕著であるがその他は通常通りであった。これは集集地震断層の下部での前駆すべりを仮定すれば、3地域ともDCFFパタンで説明できる。

階層ベイズ時空間ETAS モデル [1, A2, A5, A6, A9]広域的にみると地震活動には個性がある。それを具に捉えるために、地域的な違いを表現するベイズ型時空間モデルを開発した。これは時空間ETAS モデルのパラメータ値が場所によって変動するものとし、それらで地震発生様式の地域性を表現、可視化する。すなわち階層的時空間ETASモデルは、常時地震活動度が位置 (x, y) の関数、4つのパラメータK a p q も地震の位置の関数と考え、地震の位置を頂点とする3角形のデロネ分割上の極多面体として表現し、各地での特徴的な地震活動様式を定量化する。すなわち任意の位置 (x, y) における関数の値は、それを含むデロネ3角形内で線形的に内挿されたものである。

これらのパラメータ関数を決める、推定すべき係数はデータの地震数の5倍である。安定した解を求めるため、係数同士の関係に次のような制約をかける。関数の各三角面の傾きの2乗の積分に対しペナルティをかける、すなわち関数が定数(微分係数が0)から乖離することにペナルティをかける。そして、当てはまりの良さを測る対数尤度 (7) との釣り合いを、ペナルティ付き対数尤度 (1) を通して考えるのである。ABIC によって5つの関数それぞれのペナルティ(制約)の強さを客観的に決め、その上でペナルティ付き対数尤度を最大化する係数を解として得る。ここで、モデルのパラメータは位置には依存するが、時間変化t に関しては無関係としたが、これは以下の様な時間的な異常活動の検出に必要なことである。

気象庁震源データを用いて実際の地震活動の計測を以下の様に精密に行なった。最初に求めた上記のベイズ的時空間ETASモデルの条件付強度関数と、これによって予測される各地の地震活動度のと実際の地震発生数を比べる「相対的地震発生率関数」(時空間)をかけ合わせた条件付強度関数で尤度を定義し、ベイズモデルによる平滑化問題と考え推定した。相対的地震発生率関数の平滑化事前分布を定義するために、3次元時空間を発生時刻を含む地震の震源を頂点とするようにデロネ分割し、4面体上の面の傾きが小さくなるような平滑化事前分布を導入しABIC法によって事後分布の最適推定パラメータ (posterior mode) を求めた。

階層的時空間ETASベイズモデルによる地震活動パラメータの推定と異常地震活動検出 [11, A2, A5, A6, A9]階層ベイズ型時空間モデルによって広域地震活動の地域的な個性(顔)を表現するパラメータ (位置の関数) を推定することで各地の地震活動様式の違いを定量化して可視化できた。たとえば階層的時空間ETASモデルを気象庁震源データにあてはめると、常時活動度、余震強度や余震減衰指数(p値)などの、日本の各地の地震活動様式の定量的推定ができ、地殻熱流量やアスペリティ (断層面内の摩擦強度の強い部分、これが滑ると大地震になる) などの地球物理学的な性質との対応が議論できる。特に高いK‐値はアスペリティの周辺境界地域に分布しており、これまでの詳細な余震分布の知見を再現している。

東海・近畿地方の地震活動に対して前述の相対的地震発生率関数を求めると特徴的なのは、もともと常時活動の活発な地域である、兵庫県南部地震震源域周辺の丹波地域と和歌山地域の相対的な活発化である。この現象は地殻のストレス変化によって活発化したことを示す。実際、これらは兵庫県南部地震の断層モデルに対する当該地域の地震の最頻メカニズムによるCFF分布と調和的である。更に両地域の地震発生をETASで解析すると、この活発化の始まりは兵庫県南部地震発生時より1年ほど先行していることが分かる。これは断層のどこかで前駆すべりがあった可能性を示唆している。さらに2001年の相対的地震発生率関数による相対的静穏化と活発化は浜名湖付近直下のすべりによるCFF分布に調和的である。

 

(5) 物理的モデルと地震活動の接面の解明の研究

地震活動の変化による水圧効果の推定 [14] 群発地震活動の統計的モデルによる解析と、物理的理論モデルに基づいた拡散過程による地殻内の地下水の移動とストレス変化の検出が可能になった。これはETASモデルの常時活動のパラメータの変化をモデル化して解析することで実現できる。3次元弾性体における物理モデルによる数値シミュレーション実験と実データの統計的解析結果は調和的である。明らかに、このモデルは火山性地震とマグマの移動現象にも適用できるものである [e.g., A7]

地電位の変動データと地震発生危険度推移の相関性 [24]1982-1998年の北京周辺における地電位の間欠的に起きる或る低周波帯の地電位変動の平均振幅と継続時間の積の総和を日別にまとめたもの(日総量)を入力時系列として、点過程モデルでマグニチュード4以上の地震発生との因果関係、相関関係について解析した。ざっと見て異常現象と言うには発生頻度が結構多く、観測所ごとに違うが、地震発生を除群化したデータのポアソン過程と比べると、AICの差で少なくて15多くて45ということで、日総量データを考慮したほうの当てはまりがはるかに良い。

1日当たりの地震発生の危険度は全期間の平均危険度より高い危険度の総日数は全体の3分の1ほどであるが、起こった地震の7割前後がそれらの日に集中している。4観測所の日総量データを合わせて複合的確率予測公式を使えば平均危険度以上の警戒日数が全日数の10%ほどまで少なくなり、地震の確率予測の実用化に近づくのではという感触を得た。

微小地震活動と地球潮汐 [15, A1] 兵庫県南部地震後約2年間の丹波山地の微小地震の発生は、トリガーされて活発化した後に次第に減少している。この様な傾向を多項式のトレンドで表現し、余震現象をETASモデル、そして地球潮汐の月齢成分を周期として持つフーリエ三角関数の3成分の点過程モデルによって解析をしたところ、地球潮汐に有意な因果関係が得られ、その振幅や位相が推定できた。論文 [15] は地下の岩石のAEデータのマグニチュードGR則の値変化と月齢に基づく地球潮汐のストレス変化の相関について議論している。

(6) 地震の大きさ分布と地震検出率の同時推定および余震の確率予測 [A31, A32]

本震直後の合い重なる地震波のために小さな余震の捕捉は極めて困難であり、これに基づくデータ欠測は震源カタログの本質的な弱点である。現在気象庁で実施されている余震の確率予測の実用的な展開のために、この困難を克服する為のモデルを与えた。これは余震のマグニチュードごとの検出率の変化とGR則のb‐値を同時に推定するものである。これによると従来本震発生後1日以降に与えられている確率予報が1時間以降に出せる可能性がある。

 

発表論文2003 - 2005

査読付き論文:

2003:

[1] Ogata, Y., Katsura, K. and Tanemura, M. (2003) Modelling of heterogeneous space-time occurrences of earthquakes and its residual analysis, Applied Statistics (J. Roy. Stat. Soc. Ser. C.), Vol. 52, Part 4, pp. 499-509 (2003).

[2] Ogata, Y., Jones, L. and Toda, S. (2003) When and where the aftershock activity was depressed: Contrasting decay patterns of the proximate large earthquakes in southern California, J. Geophys. Res., 108, No. B6, 2318, doi: 10.1029/2002JB002009.

[3] Ogata, Y. (2003) Examples of statistical models and methods applied to seismology and related earth physics, International Handbook of Earthquake and Engineering Seismology, International Association of Seismology and Physics of Earth's Interior, Vol. 81B, HandbookCD#2, Chapter 82.

[4] Toda, S. and Stein, R.S. (2003) Toggling of seismicity by the 1997 Kagoshima earthquake couplet: A demonstration of time-dependent stress transfer, J. Geophys. Res., 108, B12, 2567, doi: 10.1029/ 2003JB002527,

[5] Vere-Jones, D. and Ogata, Y. (2003) Statistical principles for seismologists, International Handbook of Earthquake and Engineering Seismology, International Association of Seismology and Physics of Earth's Interior, Vol. 81B, pp. 1573-1586.

 

2004:

[6]長郁夫岩田貴樹・志賀卓弥・徳永健人・福與径夫・篠崎祐三 (2004) 微動を用いた構造決定のための円形アレイデータ解析:実データに対するHenstridge, 新手法の適用性の検討, 物理探査, 57, pp. 501-516.

[7] Iwata, T., and Nakanishi, I. (2004) Hastening of occurrences of earthquakes due to dynamic triggering: The observation at Matsushiro, central Japan, Journal of Seismology, 8, pp. 165-177.

[8] Nanjo, K., Nagahama, H. and Yodogawa, E.. (2004) Symmetry in the Self-organized Criticality, The Journal of the International Society for the Interdisciplinary Study of Symmetry (ISIS-Symmetry) Symmetry: Art and Science 2004 (Editors D. Nagy and G. Lugosi) ISIS-Symmetry, Budapest, Hungary, pp. 302-305.

[9] Nanjo, K. and Nagahama H. (2004) Fractal Properties of Spatial Distributions of Aftershocks and Active Faults, Chaos, Solitons and Fractals, 19, pp. 387-397, doi: 10.1016/S0960-0779(03)00051-1.

[10] Nanjo, K. and Nagahama, H. (2004) Discussions on Fractals, Aftershocks and Active Faults: Diffusion and Seismo-electromagnetism, The Arabian Journal for Science and Engineering, 2004, 29, 2C, pp. 147-167.

[11] Ogata, Y. (2004) Space-time model for regional seismicity and detection of crustal stress changes, J. Geophys. Res., Vol. 109, No. B3, B03308, doi:10.1029/2003JB002621.

[12] Ogata, Y. (2004) Seismicity quiescence and activation in western Japan associated with the 1944 and 1946 great earthquakes near the Nankai trough, J. Geophys. Res., 109, B4, B04305, doi:10.1029/2003JB002634.

[13] Zhuang, J., Ogata, Y. and Vere-Jones, D. (2004) Analyzing earthquake clustering features by using stochastic reconstruction Journal of Geophysical Research, 109, B5, B05301, doi:10.1029/2003JB002879.

 

2005:

[14] Hainzl, S. and Ogata, Y. (2005) Detecting fluid signals in seismicity data through statistical earthquake modeling, J. Geophys. Res., Vol.110, No.B5, B05S07, doi:10.1029/2004JB003247 (2005).

[15] Iwata, T. and Young, P. (2005) Tidal stress/strain and the b-value of acoustic emissions at the Underground Research Laboratory, Canada, Pure and Applied Geophysics, 162, pp. 1291-1308.

[16] Iwata, T., M. Imoto, and S. Horiuchi (2005) Probabilistic estimation of earthquake growth to a catastorophic one, Geophys. Res. Let., 32. L19307, 10.1029/2005GL023928.

[17] Nanjo, K.Z., Nagahama, H. and Yodogawa, E. (2005) Symmetropy of fault patterns: Quantitative measurement of anisotropy and entropic heterogeneity, Mathematical Geology, 37, 3, pp. 277-293, doi: 10.1007/s11004-005-1559-z.

[18] Nanjo, K.Z., Turcotte, D.L. and Shcherbakov, R. (2005) A model of damage mechanics for the deformation of the continental crust, J. Geophys. Res., 110, B7, B07403, DOI: 10.1029/2004JB003438.

[19] Nanjo, K.Z. and Turcotte, D.L. (2005) Damage and rheology in a fiber-bundle model, Geophys. J. Int., 2005, 162, pp. 859-866, doi:10.1111/j.1365-246X.2005.02683.x.

[20] Holliday, J.R., Nanjo, K.Z., Tiampo, K.F., Rundle, J.B. and Turcotte, D.L. (2005) Earthquake forecasting and its verification, Nonlinear Processes in Geophysics, 12, pp. 965-977, doi: 1607-7946/npg/2005-12-965.

[21] Ogata, Y. (2005) Synchronous seismicity changes in and around the northern Japan preceding the 2003 Tokachi-oki earthquake of M8.0, J. Geophys. Res., 110, B8, B08305, doi:10.1029/2004JB003323.

[22] Ogata, Y. (2005) Detection of anomalous seismicity as a stress change sensor, J. Geophys. Res., Vol.110, No.B5, B05S06, doi:10.1029/2004JB003245.

[23] Toda, S., Stein, R.S., Richards-Dinger, K. and Bozkurt, S. (2005) Forecasting the evolution of seismicity in southern California: Animations built on earthquake stress transfer, J. Geophys. Res.,110, B05S16, doi:10.1029/2004JB003415.

[24] Zhuang, J., Vere-Jones, D., Guan, H., Ogata, Y. and Ma, Li (2005) Preliminary analysis of observations on the ultra-low frequency electric field in the Beijing region, Pure and Applied Geophysics, 162, pp. 1367-1396.

[25] Zhuang, J.  Chang, C., Ogata, Y.  Chen, Y. (2005) A study on the background and clustering seismicity in the Taiwan region by using point process models, J. Geophys. Res., 110, B5, B05S18, doi:10.1029/ 2004JB003157.

 

In press or accepted:

[26] Nanjo, K.Z., Nagahama, H. and Yodogawa, E., Symmetropy of earthquake patterns: asymmetry and rotation in a disordered seismic source, Acta Geophysica Polonica, in press, Volume 54.

[27] Nanjo, K.Z., Rundle, J.B., Holliday, J.R. and Turcotte, D.L., Pattern informatics and its application for optimal forecasting of large earthquakes in Japan, Pure and Applied Geophysics, accepted.

[28] Chen, C.C., Rundle, J.B., Holliday, J.R., Nanjo, K.Z., Turcotte, D.L., Li, S.C. and Tiampo, K.F., The 1999 Chi-Chi, Taiwan, earthquake as a typical example of seismic activation and quiescence, Geophys. Res. Let., 2005 accepted.

[29] Ogata, Y., Seismicity anomaly scenario prior to the major recurrent earthquakes off the east coast of Miyagi Prefecture, northern Japan, and its implication for the intermediate-term prediction, Special Issue on Dynamics of Seismicity Patterns and Earthquake Triggering, eds. S. Hainzl, G. Zoler and I. Main, Tectonophysics, in press.

[30] Ogata, Y., Anomaly monitoring of aftershock sequence by a reference model: A case study of the 2005 earthquake of M7.0 at the western Fukuoka, Kyushu, Japan, Geophys. Res. Letters, in press.

[31] Ogata, Y. and Zhuang, J., Space-time ETAS models and an improved extension, Special Issue on Critical Point Theory and Space-Time Pattern Formation in Precursory Seismicity, eds. K. Tiampo and M. Anghel, Tectonophysics, in press.

[32] Toda, S. and Matsumura, S., Spatio-temporal stress states estimated from seismicity rate changes in the Tokai region, central Japan, Tectonophysics, in press.

[33] Zhuang J., Ogata Y. and Vere-Jones D., Diagnostic analysis of space-time branching processes for earthquakes. Chapter 15 of Case Studies in Spatial Point Process Models, Eds. Baddeley A., Gregori P., Mateu J., Stoica R. and Stoyan D. Springer-Verlag, New York, in press.

Main Proceedings:

主な報告など:

2003:

[A1] 岩田貴樹・片尾浩(2003)点過程モデルを用いた月齢と丹波山地の微小地震発生の相関に関する解析, 日本地震学会講演予稿集A062.

[A2] Ogata, Y. (2003) A practival space-time model for regional seismicity (招待講演)ヨーロッパ地球物理学会連合アメリカ地球物理学会連合合同大会, ニース、フランス, Geophysical Research Abstract , Volume 5, 2003,  CD-ROM, ISSN: 1029-7006

[A2] Ogata, Y. (2003) A practival space-time model for regional seismicity (invited), EGS-AGU-EUG Joint Assembly,Nice, France,  Geophysical Research Abstract , Volume 5, 2003,  CD-ROM, ISSN: 1029-7006

[A3] Ogata, Y. (2003) Sesimicity-change-analysis by a space-time point-process model (invited) The 3rd Statistical Seismology Workshop, Juriquilla, Mexico.

[A4] 尾形良彦  (2003)  1944年東南海地震および1946南海地震前後の西南日本における地震活動変化について, 地震予知連絡会会報70, 378-383, 国土地理院.

[A5] 尾形 良彦 (2003) 統計的時空間モデルで検出された中部・近畿地方の地震活動変化 (1995-2001), 地震予知連絡会会報, 70, pp. 5-6 and 361-363, 国土地理院.

[A6] 尾形良彦  (2003)  広域地震活動の時空間統計モデルとその活動変化解析, 月刊 地球, 25 No. 10, pp. 783-787, 海洋出版.

[A7] Toda, S. and Stein, R.S. (2003) Earthquake triggering by volcano-tectonic events: An example from the 2000 Izu Islands swarm (invited talk), XXIII Ceneral Assembly of the International Union of Geodesy and Geophysics, 2003.

[A8] Toda, S. (2003) A Fresh Look at the Triggering of Earthquake Pairs, Such as the Landers-Big Bear, Landers-Hector Mine, Izmit-Duzce, and Nenana-Denali, and March-May 1997 Kagoshima Events (invited talk), American Geophysical  Union 2004 fall meeting.

 

2004:

[A9] Ogata, Y. (2004) The 6th World Congress of the Bernoulli Society for Mathematical Statistics and Probability, and 67th Annual Meeting of the Institute of Mathematical Statistics, “Space-time model for regional seismicity and detection of crustal stress changes”, July 25-29, 2004, Barcelona, Spain, (invited lecture)

[A10] 尾形良彦 (2004) 統計的点過程モデルと地震活動の予測と発見 (特別企画講演), 日本数学会2004年度年会 特別企画講演予稿集.

[A11] 尾形良彦 (2004) 静的トリガリングと統計, 156回地震予知連絡会トピックス招待講演

[A12] Ogata, Y. (2004) Synchronous seismicity changes in and around the northern Japan preceding the 2003 Tokachi-oki earthquake of M8.0 (invited talk) International Conference in Commemoration of 5-th Anniversary of the 1999 Chi-Chi Earthquake, Taipei, Taiwan.

[A13] Ogata, Y. (2004) Stress changes, seismicity changes and statistical models, Workshop on Seismic Activity and Probabilities of Major Earthquakes in the Kanto and Tokai Area , Central Japan, Wadati Memorial Hall, Institute for Earth Science and Disaster Prevention, Tsukuba, Japan (invited presentation),  http://kt-jisin.bosai.go.jp/WS/Program/index.html, (invited talk)

[A14] Nanjo, K.Z., Rundle, J.B. and Holliday, J.R.. (2004) Pattern Informatics and Its Application to Forecasting Large Earthquakes in Japan, Abstract for AGU 2004 Fall Meeting,  Eos Trans. AGU, 85(47), Fall Meet. Suppl., Abstract NG22A-07 (invited talk).

[A15] 遠田晋次 (2004) 地震トリガリング研究の地震予知への展開, 156回地震予知連絡会トピックス招待講演

[A16] Toda, S., and Matsumura, S. (2004) Spato-temporal stress states estimated from seismicity rate changes in the Tokai region, central Japan (invited talk), American Geophysical Union 2004 fall meeting.

[A17] Zhuang, J., Ogata, Y. and Vere-Jones, D. (2004) Diagnostic analyses of space-time branching processes for earthquakes, Spatial Point Process Modeling and its Applications, Benicassim, Castellon, Spain, Spatial Point Process Modelling and Its Applications, Col-Lecco Treballis D'Infomatica/Tecnologia, Num. 20, ISBN 84-8021-475-9 Publication de la Universitat Jaume-I, Castello de la Plana, Spain, pp. 273-292.

[A18] Zhuang, J., Ogata, Y. and Vere-Jones, D. (2004) Visualizing goodness-of-fit of point-process models for earthquake clusters., Analysis of Natural and Social Phenomena: Data Science and System Reduction; an international workshop of the 21st Century COE program at Keio University, http://coe.math.keio.ac.jp/english/event/cherry_bud/index.html, (invited talk).

[A19] 尾形良彦 (2004) 2003宮城県北部の前震活動と余震活動および周辺部の地震活動の統計解析, 地震予知連絡会会報, 71, pp. 260-267, 国土地理院.

[A20] 尾形良彦 (2004) 宮城県沖プレート境界型大地震までの東北地方における地震活動, 地震予知連絡会会報, 71, pp. 268-278, 国土地理院.

[A21] 尾形良彦 (2004) 2003年十勝沖地震(M8.0)前後の北日本における地震活動の特徴について, 地震予知連絡会会報 第72 pp. 110-117, 国土地理院.

[A22] 尾形良彦 (2004) 静的トリガリングと統計, 地震予知連絡会会報 72pp. 631-637, 国土地理院 。

[A23] 遠田晋次 (2004) 地震トリガリング研究の地震予知への展開, 地震予知連絡会会報 72pp. 624-626, 国土地理院

[A24] 遠田晋次 (2004) 2003宮城県沖の地震前後の内陸地震の活動変化とその意味,月刊地球,27, 1, 56-61.

[A25] 尾形良彦 (2004) 破壊応力変化と発震機構分布の変化について, 日本地震学会講演予稿集S023.

 

2005:

[A26] 村田泰章・尾形良彦 (2005)ドローネ三角形分割による重力データの平滑化と地殻表層密度推定、地球惑星科学関連学会合同大会20055.

[A27] 尾形良彦 (2005) 昭和の南海トラフ巨大地震前後の西南日本における地震活動と最近の活動, 地球惑星合同学会 特別セッションS095招待講演

[A28] Ogata, Y. (2005) Seismicity changes in western Japan associated with the great earthquakes near Nankai trough and their contemporary implications, Specially organized session S095, invited talk.

[A29] 尾形良彦 (2005) 2004年紀伊半島南東沖の地震(M7.4)の余震活動の特徴と本震の破壊断層モデルとの関係について, 地震予知連絡会会報 第73, 495-498, 国土地理院.

[A30] 尾形良彦 (2005) 2004年新潟県中越地震(M6.8)の余震活動の特徴と周辺部における地震活動の特徴について, 地震予知連絡会会報 第73, 327-331, 国土地理院.

[A30] Ogata, Y. (2005) On an anomalous aftershock activity of the 2004 Niigata-Ken-Chuetsu earthquake of M6.8, and intermediate-term seismicity anomalies preceding the rupture around the focal region (in Japanese), Report of the Coordinating Committee for Earthquake Prediction, 73, pp. 327-331, Geographical Survey Institute of Japan.

[A31] 尾形良彦 (2005) 地震検出率とb値の同時推定と余震の確率予測, 地震予知連絡会会報 第73. 666-669, 国土地理院.

[A32] Ogata, Y. (2005) Toward urgent forecasting of aftershock hazard: Simultaneous estimation of b-value of the Gutenberg-Richter’s law of the magnitude frequency and changing detection rates of aftershocks immediately after the mainshock, preprint.

[A33] 尾形良彦 (2005) 2003年十勝沖地震(M8.0)2004年釧路沖の地震(M7.1)の余震活動および北海道東部の内陸地震活動の特徴について, 地震予知連絡会会報 74,  pp. 83-87,国土地理院.

[A34] 尾形良彦 (2005) 2005年福岡県西方沖の地震(M7.0)前の九州地方及び付近における中期的な地震活動の特徴について, 地震予知連絡会会報74,  pp. 523-528,国土地理院.

[A35] 尾形良彦 (2005) 福岡県西方沖の余震活動について: 最大余震 (M5.8) 以前に報告された相対的静穏化と余震域をストレスシャドウにするような前駆すべりのシナリオ, 地震予知連絡会会報74,  pp. 529-535,国土地理院.

[A36] 尾形良彦 (2005) 2003年十勝沖地震(M8.0)と2004年釧路沖の地震(M7.1)の余震活動および北海道東部の内陸地震活動の特徴について, 日本地震学会講演予稿集S023.

[A37] Toda, S. (2005) Style of stress accumulation and release in northern Honshu Japan: A concept to explain the coexistence of destructive inland earthquakes and interplate thrust earthquakes (invited talk), Spatial and Temporal Fluctuation in the Solid Earth, 21COE International Symposium 2005, Sendai, Japan.

 

 

本プロジェクトの今後の展開について

(1) 静穏化現象のシナリオ追求による大地震・大余震の予測

 

地震活動の予測と実際の地震発生の相違(静穏化や活発化)を測ることで、地震活動が地殻中のストレス変化のセンサーになる可能性が出てきた。ETASモデルは余震減衰の経験法則に基づき、地震活動の個性を表現し、地域的毎に将来の活動を予測する。近傍で大きな地震や非地震性のすべりが起ると、断層周辺部の応力(ストレス)が急激に変化してストレス変化が伝わり、そこでの地震(余震)の活動度が予測されたものから系統的に外れる。そのような相対的静穏化や活発化は、地震(余震)活動に働くクーロン破壊応力の減少や増大と整合的に対応すると考えられる。非地震性のすべりの所在をつきとめることは大地震の発生の確率予測の効率を上げるのに役立つ。

解析事例を積み重ねる事によって、地震活動が地殻歪やストレス変化の鋭敏なセンサーとして有用である事をより確実化する。また、ストレス変化を介在して、測地学的時系列データを地震発生に関する説明変数として取り込み、地殻場変化の物理モデルと地震活動を結びつける時空間点過程などの高度の統計モデル作成の手掛かりが得られる。これは震源カタログに基づく地震活動パタンと応力変化を反映した地殻変動との相関・因果関係の統計的探索や検証ができるようにするために必要であると考えるからである。これによって、まとまった地震学的な知見を生み出すと同時に、多くの地震活動研究者の使用に耐える統計ソフトウェアの提供を目指す。

(2) 時空間ETASモデルの効果的運用のための再モデル化

階層ベイズ型時空間モデル (Hierarchical Space-Time ETAS model) によって時空間的に地震活動の予測と実際の地震発生の相対比をベイズ法により推定する方法が確立しつつある。この際、解析の足枷となるのは、地震カタログにおける微小地震の検出率の時間的・空間的不均質である。できるだけ多くのデータを使用できるようにデータの不均質構造を考慮に入れたマグニチュード分布をモデル化してベイズ型時空間モデルの拡張を図る。近年、気象庁地震観測網の検知能力が向上したのみならず、各大学や防災科技研の地震観測網からの基礎データの統合(一元化)によって、検知地震数や決定精度が飛躍的に伸び零マグニチュード以下のものまでが捕捉されている。これに伴い地震データのマグニチュードの下限が時間的に変化している。これに加えて検知率は従来から空間的に、例えば内陸と海域では、大きく異なる。このような時空間不均質データに対応するベイズ型時空間モデルの拡張モデルの開発をめざす。

さらに本震直後の重なる地震波のために小さな余震の捕捉は極めて困難であり、これに基づくデータ欠測は震源カタログの本質的な弱点である。この様な欠測構造を考慮して余震の確率予測実効を上げ、新展開を図る。

(3) 予測としての前震の識別確率

短期予測としての前震の識別と除群アルゴリズムある所で地震活動が始まる。それは段違いに大きな地震の前震かもしれないし、ほぼ同規模の地震が続く群発型地震かもしれない。単なる本震・余震型の場合も多い。これらのいずれの型であるかはその地震活動が終息してからでないと決定的には分からないが、何らかの情報で逐次変動する確率が予測できるならば防災上の価値は高い。Ogata et al. [1995, 1996 and 1999], Ogata [1999b] 地震群 (複数の地震) の時間的・空間的集中度とマグニチュード列の増減パタンに関する識別情報に基づいて、この活動が来るべき格段に大きな地震の前震であるか否かの確率を予測する宇津・安芸の複合予測公式 [Utsu, 1977; Aki1981] を拡張したlogitモデルを考え、そのような確率予測の性能評価をした。確率予測は平均的な確率値(無情報)からの変動幅が大きいほど予測の情報が効率的なので、そのような識別情報を探す必要がある。

この研究は、あるところに地震が起きた時点で、そして逐次それに続く群れの地震の発生時刻・位置・マグニチュード列のパタンに関する情報を使うことによって、群の型(特に前震型)を有効にリアルタイムで予測するような条件付き確率の統計モデルを見いだすことであった。しかし、この研究の難所の第一は地震の群れを同定することである。Ogata et al. [1995, 1996 and 1999] Ogata [1999b] マグニチュードに基づく除群法 (MBC法) Single-Link Clustering 法(SLC法)の二つの相補的なアルゴリズムを採用し予測モデルの頑健性を試した。MBC法は大きな地震から順次マグニチュードによって群を構成するのに対して、SLC法は地震間の時空間の距離による近さでのみで構成し、然る後に群の中の最大地震を本震として定める。MBC法は地震統計の経験則に沿って決められているが、その短所は本震が起 きるまで(結局、活動が終了するまで)群が決められないことであり、現在進行中の地震活動を予測するのに支障があることである。これに対してSLC法は距離だけに基づいており、現在までの時点での群を決めることができる点でリアルタイム予測の観点から、やや優れているが、SLCの最適パラメータを決めるにあったって難点がある。最近、時空間ETASモデルによる確率的除群法 [Zhuang et al., 2002] が提案されているが、これに基づいて確率予測をする方式はこの点を克服できる点で十分価値があり、この観点からの研究を追求し、上記のlogit モデルをベイズ的に拡張したい。

(4) ストレス変化と地震の発生率の変化

Dieterichの摩擦構成則に基づく理論式は、地震の発生率変化の量的な予測を記述する拠り所のひとつである[Dieterich, 1994; Dieterich et al., 2000; Toda and Stein, 2003]。測地学的データと地震発生や発震機構のデータによって地殻のストレス変化とETASに基づく地震活動変化にかんする断層内の順問題・逆問題を研究するのはこれから重要になると考えられる。

(5) 長期予測‐ベイズ的確率予測

詳細な地質学的活断層データについて対応するベイズ的推論に基づいた直下型大地震の予測確率の実用化固有地震と思われるデータに対して更新過程の分布のパラメータが推定されると、それを危険度関数に代入して次の地震発生の確率予測を出す。しかしデータ数が少ないとき最尤推定値を採用すると、予測危険度関数の誤差が大きいだけでなく危険度関数や確率予測について偏りが生ずる場合がある。予測危険度関数の誤差や偏りを調べるには尤度関数(事後分布)全体を見ることが必要である。そもそも最尤法が典型的に優れているのは尤度関数が対称で周辺部の裾が軽い場合であり、非対称で裾が重い場合には偏った推定値となる。一般に尤度関数そのものがデータと更新過程モデルの係わりについての全ての情報を持っており、偏りのない適当な事前分布に対する事後分布をもとに最尤法以外の統計的推論を考えることができる。ひとつは事後分布の平均値(ベイズ推定量)を考える事である。もう一つは危険度関数族の事後分布による平均をとった予測危険度関数 (predictive hazard rate) を考えることである。これらによって偏りのない危険度や確率の評価が可能になる。予測確率の誤差評価には、データ数が少ない場合は事後分布をつかって計算する方法が有効である。

BPTモデル[Matthews et al., 2002] とスリップサイズデータを使う時間予測モデルを拡張し予測危険度関数による確率予測を提案した [Ogata, 2001, 2002] が,これをエベントの区間時刻データ [Ogata, 1999] ひいてはエベントの発生時刻尤度データ [e.g., Sieh et al., 1989] と合わせてベイズ的確率予測する方式をまとめてみたい。

(6) 各種データの有効利用と品質管理の為のモデリング

日本のような高度情報工業国、気象現象の変化の激しい土地柄では各種地球物理データには非定常非線形な各種ノイズも混入し、単にデータを蓄積するだけでS/N比があがることを多くは期待できない。このためには各種ノイズの変化の統計的なモデルを通して有用な情報を取り出すことを考える必要がある。季節変化、地球潮汐、気圧変化や降雨効果を分離するBAYTAP-Gや状態空間時系列モデルなどのベイズ型モデルは、まだごく限られた現象にしか応用されておらず、モデル自体もそれぞれのデータとニーズに応じた創造的拡張発展を迫られている。とくにGPSなどの測地データは日本全土に稠密に展開されており、地殻ストレス変動の異常と断層のすべりは地震性・非地震性を問わずよく対応しているが、その異常は小さくなるにしたがってノイズに埋もれておりこの除去が課題である。

また折角多大な努力で採取した膨大なデータも長期にわたる均質性を維持するのは大変である。計測器の特性や計測手法の変化などを考慮したデータの品質管理について多くの努力を注ぐことは地味ではあるが重要な課題である。データの不均質性の中味を探る解析や検出力の時空間的変化などを推定する統計モデルも数多く考案されてよい。例えば気象庁地震カタログの検知能力の変化を推定して検出された全てのデータを有効利用して日本全土のb値や地震活動度の変動の解析をする統計モデルも既に提案されている。いずれにしても、定常的にデータを編集している各関係機関内で直面する共通の技術的な問題として重要視して積極的に取り組んでいかねばならないと考える。歴史地震、明治・大正の地震発生などの記録は世界の何処でも期待できないほど情報量が多く貴重である。これらのディジタル化など解析のための整備・編集などは重要である。

文献

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付録 3: 第4回統計地震学国際ワークショッププログラム

 

評価の参考にするために、評価委員会開催に先立ち、第4回統計地震学ワークショップを総合研究大学院大学葉山キャンパスにおいて開催した。プログラムについては英文版を参照のこと。