巨視的な物体を設計するに当たっては、各部分を設計し それを組合わせて作るのが一般的である。これに対して ミクロな物体の設計では簡単に部分に分けて考えられな い点に難しさがある。また、設計の目標(最適化すべき 関数は何か)ということも必ずしも自明ではない。
最近、DeutschとKuroskyは設計の目標として「十分低い温度 での物体(タンパク質)の形状の確率分布がターゲットとなる 形状の上にできるだけ集中するような要素(アミノ酸)の 配置を探す」という規準を提案した。この規準は、 ターゲットがエネルギー最小の状態の一つであるだけ でなく他に同じエネルギーの状態が少ないこと、解がわずかな熱揺らぎに対して 安定であること、などの要求を採り入れて考えられたものである。
この規準が統計学の立場から興味深いのは、この定式化に よる設計問題は、 複雑な確率分布に対する最尤推定の問題 (たとえば種村と尾形による点配置パターンの解析) に形式的によく似ているという点である。実際、ターゲット をデータ、アミノ酸配置をパラメータに対応させれば、 どちらも与えられた事象の確率を最大にするようなもの を求める問題になっている。これらはまた、(Deutschらが すでに指摘しているが)ある種のニューラルネットの 学習のための規準とも類似している。
講演では、設計問題の概略を説明したのち、最尤推定やニューラルネット とのアナロジーから構成されたオリジナルのアルゴリズム (学習方程式法)を紹介する。また、時間があれば、タンパク質の 統計物理や進化に関する話題、他の設計の規準などにも触れる。