より早く正確な緊急地震速報に向けて ―複数の地震観測網を統合した計算手法を開発―

ISM2021-04
2021年5月7日

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2020年7月30日の鳥島近海の地震で、拡張IPF法は正しく地震の規模と場所を推定することができた

       

概要

 緊急地震速報は、地震の発生をいち早く知らせる防災上非常に重要なお知らせです。しかしながら、揺れが小さな地震に対しても誤って緊急地震速報を出してしまうことがありました。例えば、2020年7月には鳥島近海の地震を検知して関東地方などに緊急地震速報を発表しましたが、地震の揺れは予測よりもずっと小さく、過大予測となってしまいました。

 本研究では、現在の緊急地震速報に導入されているIPF法を拡張し、どの地震観測網のデータでも利用できる新しい手法(拡張IPF法)を開発しました。複数の地震観測網を一緒に利用すると、計算に使える地震計の数が多くなり、より早く正確に地震を検知することができます。2020年1月より京都大学防災研究所で試験運用したところ、7月の鳥島近海の地震に対しても、正しく規模と場所を推定することができました。

 この手法は、様々な地震観測網のデータに適用することができるので、海外の地震観測網にも利用することができます。緊急地震速報は世界の地震大国で注目が高まっており、日本のシステムを海外へ展開させる可能性を秘めています。

 本成果は、2021年5月4日(現地時間)にアメリカ合衆国の国際学術誌「Bulletin of the Seismological Society of America」にオンライン掲載されました。

   

1.背景

 緊急地震速報は、地震の発生をいち早く知らせる防災上非常に重要なお知らせです。しかしながら、揺れが小さな地震に対しても誤って緊急地震速報を出してしまうことがありました。例えば、2020年7月には鳥島近海の地震を検知して関東地方などに緊急地震速報を発表しましたが、地震の揺れは予測よりもずっと小さく、過大予測となってしまいました。
 私達のグループでは、2011年東北地方太平洋沖地震以降、緊急地震速報の改善に取り組んできました。2016年12月には、私達のグループと気象庁が共同開発したIPF法が緊急地震速報の震源推定手法に取り入れられました。今回の研究成果は、IPF法をさらに発展させ、どの地震観測網のデータでも利用できるようにしたものです。この新しい手法を拡張IPF法と名付けました。

 

2.研究手法・成果

 IPF法は、複数の地震が同時に発生した時にも区別して震源を決めることができる画期的な手法です。これまでのIPF法では、トリガ情報(いつP波が到達したか、とか、どれぐらいの大きさの波が来たか、という情報)を地震の観測点で計算したものを使っていました。そのため、この手法を他の地震観測網に適用するには、それぞれの観測点にトリガ情報を計算する仕組みを導入する必要がありました。
 緊急地震速報には、気象庁と国立研究開発法人防災科学技術研究所の地震観測網が使われていますが、IPF法には一部の観測網しか利用されていません。それぞれの観測網は地震計のセンサが異なり、別の計算手法を使う必要があるためです。本研究では、地震観測点で行っていたトリガ情報の計算を、中枢サーバで行う仕組みを開発しました。この仕組みにより、これまで利用することができなかった異なるセンサの観測点も統合して使用できるようになりました(図1)。複数の地震観測網を一緒に利用すると、計算に使える地震計の数が多くなり、より早く正確に地震を検知することができます。この手法を2020年1月より京都大学防災研究所で試験運用したところ、10か月の検証期間中に震度3以上を観測したすべての地震を正しく検知(予測震度±1以内)でき、平均5秒早く予測の第一報を発表することができました(図2)。7月に鳥島近海で発生した地震に対しても、精度よく規模と場所を推定することができました(図3)。

 

3.波及効果、今後の予定

 新しく開発した拡張IPF法は、様々な地震観測網のデータに適用することができるので、日本の地震観測網だけでなく海外の地震観測網にも利用することができます。緊急地震速報は世界の地震大国で注目が高まっており、日本のシステムを海外へ展開させる可能性を秘めています。
 気象庁では、拡張IPF法の考え方を参考に、緊急地震速報に使われている複数の地震観測網を統合して処理する仕組みを開発中です。観測網の統合により、特に地震波を観測した観測点の少ない発生直後において緊急地震速報の精度が向上すると考えられます。

 

4.研究プロジェクトについて

本研究は、以下の研究助成を受けて行われました。

・日本学術振興会 最先端・次世代研究開発支援プログラム 
・日本学術振興会 科学研究費助成事業若手研究B
・京都大学防災研究所 女性・若手研究者支援のための特別配当
関連研究機関:京都大学防災研究所、気象研究所、統計数理研究所

 

<研究者のコメント>

 緊急地震速報は、防災上非常に重要な情報ですが、開発に携わる研究者は少なく、これからの成長が望まれる分野です。世界の中でも地震の揺れを事前に知ることができる国は数少なく、我が国が世界に誇れる技術の一つであると言えます。我々研究者としては、引き続き高精度・高速の緊急地震速報を目指して努力していきたいと思います。

 

<論文タイトルと著者>

タイトル:The Extended Integrated Particle Filter Method (IPFx) As a High-Performance Earthquake Early Warning System(高精度の緊急地震速報を実現する拡張IPF法(IPFx))
著  者:山田真澄(京都大学防災研究所)、溜渕功史(気象研究所) 、Stephen Wu(統計数理研究所)
掲 載 誌:Bulletin of the Seismological Society of America
DOI  :https://doi.org/10.1785/0120210008
掲載日時:2021年5月4日(現地時間)

 

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図1:現行のIPF法と拡張IPF法の違いを模式的に示しています。現行のIPF法では地震観測点で波形データからトリガ情報を計算するのに対し、拡張IPF法では中枢サーバでトリガ情報を計算します。そのため、観測網に合わせてフレキシブルにトリガ情報を計算することができます。

       

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図2:2020年1~10月に発生した震度3以上の地震について、気象庁の緊急地震速報と拡張IPF法の速報発表時刻の比較。ほとんどの地震で拡張IPF法の方が早く速報を発表出来ています。一部の地震で拡張IPF法の方が遅くなっているのは、京都大学で使用できないデータが含まれているためです。

      

   

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図3:2020年7月の鳥島沖の地震の震源推定。(a)水色の星印が推定された震源の位置を示し、青色の星印が実際の震源の位置を示しており、うまく推定できていることが分かります。丸印の色は震源の確からしさを示し、三角は観測点の位置を示します(黒色と灰色は震源推定に参加した観測点、黒色はトリガあり、灰色は未トリガ。白色はそれ以外の全観測点)。(b)最終的な震源と推定された震源の距離、(c)推定されたマグニチュード、(d)推定された最大震度

  

   

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