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宇宙から地下へ

星の最期の爆発やブラックホールなど、宇宙にはまだ多くの謎が残されています。

この謎を解く鍵を秘めたX線その他の電磁波が、私達の住んでいる地球に降り注いでいます。

見ることができない地球の内部からも、地震、重力変化等重要な情報が送られてきます。

近年の科学の進歩や新しい測定法の開発は、これらの情報から新しい知識を獲得することを可能にしました。

ここでも統計的な情報処理が重要な役割を果たしています。

§1 情報量規準による画像処理

複数のパラボラアンテナ(※1)から構成される電波干渉計(※2)のデータを計算処理(※3)して画像を構成し、COガスから放射される電波のドップラー効果を解析することによって、例えば、遠い宇宙空間における回転するガスの存在(※4)が分かります。原始惑星系円盤が見えているのです。

このような観測をさらに波長の短い領域にまで広げようとすると、パラボラ上空の電波の経路上の水蒸気の変動に起因するデータの乱れを補正する必要が出てきます。そのための「大気ゆらぎモデル」(※5)も開発されています。

※1 パラボラアンテナ
写真
【写真提供】 国立天文台

宇宙からの電波を捕らえる国立天文台野辺山宇宙電波観測所の電波干渉計です。

観測の対象は、例えばカシオペア座の超新星爆発後の残骸から放射される電波です。

画像を結ばせるためには、計算機によるデータ処理が必要となります。


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※2 電波干渉計
図

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※3 計算処理

ひとつの手法として CLEAN という方法があります.
真の電波源強度分布として,(A) と,適当なパラボラアンテナ配置の電波干渉計を仮定してデータを作り, これにもとづいて電波源を推定すると,(B) のような「ボケ」画像が得られます. これを逐次的に処理してきれいな画像を得るのが CLEAN 法です.

(A)図 (B)図

クリーン法が進行するにしたがって,(C) → (D) → (E) → (F) というように次第にもとのボケ画像に近付いて, いつまでもやめないでそのまま続けるとついにはもとの (G) に戻ってしまいます. 共同研究の成果のひとつとして丁度いいところで止めるための統計的な指標が得られています. この例の場合に選ばれたのは (E) です.

(C)図 (D)図 (E)図 (F)図 (G)図

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※4 回転するガスの存在

図
【写真提供】 国立天文台 森田耕一郎氏

赤は地球から遠ざかる運動をしているガスの分布を、青は近づく運動をしているガスの分布を表しています。

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※5「大気ゆらぎモデル」のアニメーション
アニメーション

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§2 地球内部構造の推測

写真
【写真提供】 東京大学地震研究所 深尾良夫氏

人体のX線断層写真と同じ原理で、地球の内部を“見る”ことができます。

X線の代わりに地震波を用い、地震波が伝わる速度を調べて、地球の内部構造を推測する地震トモグラフィーには、統計モデルと最適化法が役だっています。

§3 地震の影響の検出

図

東海地方では地下水の変動が継続的に観測されているが、観測されるデータは様々な要因の影響を受けて複雑に変動しています。

最新の時系列モデルの利用によって、気圧、潮汐、降水などの影響を分離し、地震によって生じた影響を正確に検出できるようになりました。
(地質調査所との共同研究)

【地質調査所観測井:観測データ】

§4 地震の統計的解析

図
【データ提供】 科学技術庁 防災科学技術研究

マグニチュードMの地震発生の頻度は地震が小さくなるにつれて指数的に増加します。実際10-bMに比例しますが、この係数 b の値は場所によって異なります。

写真には深さ100kmまでの関東直下の微小地震に対して、ABICに基づき大規模ベイズ平滑化で求めた b値の三次元分布が示されています。

係数 b が大きくなるにつれて寒色から暖色に変わっていきます。

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