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圧縮センシングとその周辺(主催:統計数理研究所 統計的機械学習NOE)

日時 2011年5月27日(金) 10:00-17:00, 28日(土) 10:00-17:00

会場 統計数理研究所 大会議室(2階)(変更しました)

世話人 池田思朗,樺島祥介(東工大),田中利幸(京大),岡田真人(東大),福水健次

開催趣旨 近年,統計学,機械学習,パターン認識,信号処理,通信工学,計測工学といった幅広い分野で,疎表現に注目した様々な情報 処理の方法論が提案されています.こうした「方法」の研究における新たな潮流に対して,生命・脳科学,地球・惑星科学といった個別具体的な「対象」の解明 を目指す研究領域からも高い関心が寄せられています.本研究会では,このような動向の中でも特に注目度の高い「圧縮センシング」というキーワードを中心に 据え,圧縮センシング,および関連する諸分野の研究成果を国内の研究者が持ち寄り,意見交換をすることを目的としています.

連絡先 shiro

補記 どなたでも参加できます.参加費は必要ありませんが,会場の都合上,参加を希望される方は,必ず事前に連絡してください.希望者多数の場合には,お断りする場合もあります.あらかじめご了承ください.また,講演の応募は受け付けていません.

プログラム

5月27日(金)

10:00 – 12:00 田中利幸 (京都大学)

圧縮センシング入門
圧縮センシングとは何だろうか.本講演は,圧縮センシングの基礎的事項を解説するチュートリアル的な位置づけであり,圧縮センシングの基本的な問題設定の 解説から始め,関連研究の歴史や様々な分野での応用事例,さらには理論解析やアルゴリズムに関する代表的な研究について概説する.関連する主題として,行 列再構成に関しても触れる.

13:30 – 14:30 李斗煥 (NTT研究所)

Lessons from implementing CS prototype
NTTではユーザが無線方式を意識せずに通信可能な無線アクセス環境の実現に向け,低速なユビキタスデータから高速な無線LANまであらゆる無線方式を収 容可能なフレキシブルワイヤレスシステムを提案している.フレキシブルワイヤレスシステムでは,広帯域に受信した膨大な量の無線電波データを光ファイバ上 で効率的に伝送する必要があるため,最近注目されている圧縮センシング技術を用いた無線電波データ圧縮伝送技術に関する研究開発を行っている.本講演で は,圧縮センシング技術を実装したフレキシブルワイヤレスシステム試作機について紹介すると共に,圧縮センシング技術の実装面での課題について解説する.

14:30 – 15:30 樺島祥介 (東京工業大学)

L1ノルム最小化による疎なノイズの除去
線形観測にガウスノイズが加わる場合,原信号の完全な復元は一般に期待できない.しかしながら,ゼロになる確率が有限なノイズ(ポアソンノイズなど)の場 合には疎性を事前知識とすること完全な信号復元が可能になるかもしれない.この講演では,観測行列がランダム行列で与えられる場合,L1ノルム最小化によ りこのことが実際に可能になることを示す.また,同じ状況に対して,内点法よりも少ない計算量でこれを実現するアルゴリズムを導く.

16:00 – 17:00 三村和史 (広島市立大学)

反復法に基づく再構成アルゴリズムの評価
線形観測から原信号の再構成に,L1ノルム最小化を用いる方法は,圧縮センシングにおいて広く用いられている.このような方法は,線形計画問題として定式 化 できるため,適当な条件の下では原信号の次元の3乗程度の計算量となる.しかし,問題によっては,原信号の次元が大きいこともあるため,より計算量の少な い再構成アルゴリズムが検討がされている.本講演では,簡単な反復法に基づくアルゴリズムについての性能の評価を行う.

5月28日(土)

10:00 – 11:00 和田山正 (名古屋工業大学)

線形計画法に基づく置換行列の再構成
近年,フラッシュメモリ符号化などの文脈で順位変調(rank modulation)が注目されている.順位変調においては,送信シンボル値の絶対値は意味を持たず,系列内での順位情報が送信情報を担う.この特徴か ら,順位変調は通信路で生じる望ましくない非線形変換に対してロバストである.雑音により,順位情報が乱された場合には,受信側で誤り訂正,すなわち,順 位情報に対応する置換行列の再構成が必要となる.本講演では,線形計画法に基づく置換行列の再構成に関する最近の研究成果を紹介する.

11:00 – 12:00 池田思朗 (統計数理研究所)

Sparse Phase Retrieval
X線回折画像からの位相復元問題に対する新たな手法を提案する.これまで位相復元問題に用いられていた手法は,SN比の高い場合には効果的に位相復元がで きる.しかし,今後,X線自由電子レーザーによるフェムト秒パルスを用いて得られるであろう生体単分子の回折画像は雑音が大きく,これまでの手法は充分で はない.我々はこの問題に対してベイズ統計に基づく新たな位相復元手法を提案する.数値実験の結果,提案手法は現実的な雑音下であっても充分に位相復元を 行えることが示せた.

13:30 – 14:30 杉田精司 (東京大学)

ベイズ推定法を用いた大容量惑星反射スペクトルデータからの情報抽出
アポロやバイキングによる華々しい惑星探査は,月や火星の未知の姿を見せてくれたが,当時えられたデータは画像が中心であった.惑星の構成物質についての 情報を最も的確に得られる反射スペクトルを全球的に計測することは今世紀に入ってからの探査計画が実現するまで待たねばならなかった.そのため,惑星の反 射スペクトルの全球精密計測は,未だに本格的な解析が開発途上にある.しかし,現実には大量の反射スペクトルデータが馳駆されている.本講演では,我々が 最近開発した惑星反射スペクトルのガウス関数展開アルゴリズムを紹介するとともに,ガウス関数展開のように単純なスペクトル分解では解析が困難な含水鉱物 や有機物を含んだ始源的天体のスペクトル解析への圧縮センシングの応用について展望する.

14:30 – 15:30 岩森光 (東京工業大学)

地球科学データの独立成分分析
地球科学の対象となる物質,システムは,物性の不均質性,空間および時間スケールのダイナミックレンジの広さ.多数のサブシステムの相互作用などを内包 し,複雑である.このため,明快な物理,方程式にのったフォワードモデルが適切に構築できない場合も多い.この場合,データ(のみ)からいかにセンス良く 本質的な物理を抽出しうるかが,問題解決への道筋となるであろう.そのような例として,地球内部の物質循環を地球化学データの独立成分分析に基づいて紐解 く試みを紹介する.

16:00 – 17:00 岡田真人 (東京大学)

脳科学における疎表現
脳科学と疎表現のかかわりの歴史は長い.疎表現により神経回路の記憶容量は飛躍的に向上することが知られている[1].感覚入力が脳内で疎に表現されてい ることを示唆する知見が数多く存在する[2].この観点から,脳の感覚野は圧縮センシングの生物学的実現の一例とも考えることができる.さらに,外界の生 成のフォワードモデルを陽に知らない我々生物が,外界の本質を知る方略として,疎表現を進化の過程で獲得したと考えることもできる.
本講演では,まず疎表現による視覚世界の再構成を紹介する[2].ここでは画像は少数の基底関数の線形和で生成されると仮定し,数多くの画像から画像の基 底関数を推定する.次に,最近我々が開発した神経集団ベクトル解析手法を概説する[3].この手法では,神経細胞の発火状態を用いて,呈示画像セットに含 まれる階層的な構造を保持する神経細胞を自動選別することが可能である.最後に,高次元観測データの疎表現という切り口から,これらの枠組みが脳科学だけ でなく,本研究会で議論される地球惑星科学を含む幅広い分野で有用となる展望を述べる.
[1] Okada, Neural Networks, 9, 1429-1458, 1996.
[2] Olshausen and Field, Curr Opin Neurobiol., 14, 481-487, 2004.
[3] Katahira, Matsumoto, Sugase-Miyamoto, Okanoya and Okada, Journal of Physics: Conference Series, 233, 012021, 2010.