研究室訪問

統計科学情報の開示システムのあり方を追究

 丸山研究室のドアを開けると、微かな機械音が室内の空気を震わせているように思えた。「ほかの部屋に比べてうるさいですか? でも、私には何ともいえぬ愛着感があるのです。この音の組み合わせの中に、ある意味ではUNIXのオペレーティング・システムの歩みがこもっている」。丸山は控えめな口調で言った。

 何台ものコンピュータが重なるように設置されている。製造された時期が1990年代初頭にまで遡るハードウェアもある。「計算機が普及し、やがてインターネットが生まれ、巨大な情報社会が形成されてきた。これらの機械は、技術とシステムの進歩によって、次々に有用性を失った。でも、機械としてはまだ動いている。時々、電源を入れ、そのことを確かめながら、過去から未来へと続く道の途中にある、21世紀の統計情報資源のナビゲーションの在り方を考えています」。

代数幾何学に関する研究、インターネットとの出会い

顔写真

丸山 直昌
データ科学研究系
データ設計グループ准教授

 多くの情報が錯綜する現代社会。統計科学の分野にこそ、理想的なナビゲーションシステムの存在が不可欠だと、丸山は考えている。その実現に永年の研究テーマを見いだしてきた。その自己の軌跡については、「構成的なものを好み、代数幾何学を研究テーマとしていた自分が、方向違いとも思えるこのテーマに手を染めたのは、不思議な偶然の結果」と解析するのだが…。

 一般の研究者にとって実用的なコンピュータが出現し始めた1970年代末から、東大理学部の数学教室の助手をつとめる一方で、他の国立大学の講師として教壇に立っていた。数学を教えながら、コンピュータのハードウェア、ソフトウェアに触れる機会に多く恵まれた。1988年頃、UNIXのOS(オペレーティング・システム)に出会い、他のOSにはない「構成」のしっかりした点に魅せられた。そして、それが研究者としての転機につながったという。当時UNIX 上で開発が進んでいたインターネットの技術に触れた。商用化が進む前の「研究ネットワーク」としてのインターネットと丸山との出会いだった。

研究者が出会い、お互いに向上する共同システムを大切にしていきたい

ナビシステムとインターネット研究で社会貢献

 1989年に統数研入りし、当時の調査実験解析研究系に配属された。代数的なものと、コンピュータに関する知識を基に何かやろうと手探りする中で、大隅昇教授(現名誉教授)に声をかけられ、インターネットを使った情報の収集・発信の方法を研究することになった。大隅教授が率いるプロジェクトにより93年頃に開発された「統計情報資源ナビゲーション・システム」は、人と人の繋がりを軸に新たな研究の手掛かりを発見することができるのが特徴となった。インターネットにおける「統数研の顔」のような役割をも果たしたという。「学術情報の発信が更なる学術研究の発展を促すという理想が反映されている」。丸山は静かな口調の中に力を込めながら言った。

 もう一つの方向は、社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)への関わりだ。1990年初め、日本数学会の会長から、「丸山君、ちょっとこれやってくれないか」と言われ、それがJPNICへの長い関わりの発端となった。「日本においてIPアドレスとドメイン名の管理を行う組織を作る必要があり、その設立から運営をお手伝いしたことで、学術研究の世界のみならず、社会に貢献できたと考える」と感慨深そうに振り返った。

再び、研究者としての転機を自覚する

 「統計情報資源ナビゲーション・システム」は現在、新たなスタートを切るための準備を進めている。統数研の顔の役割は公式ホームページに譲り、共同研究データベースは発展、独立して、2010年秋から、「共同研究Web申請システム」となったからだ。「いま、ナビゲーション・システムを再設計し、 作り直す時期に来ている」と丸山は考え、一年がかりの作業を計画している。「今後もIT利用のナビゲーションによって研究者が出会い、お互いに向上する共同システムを大切にしていきたい」と語る。

 インタビューの間、丸山は「しっかり」と「構成的」という言葉をよく使った。逆の言い方をすると、「混沌としているものに場あたり的に立ち向かうのは好きではない」。中学生の頃から、将来は数学者か、コンピュータの技術者、研究者になる自分を想像した。「その予感は的中した」と他者の目には映るのだが、本人としては「どちらにも徹しきれないで中途半端でいるようで、正直ちょっと不満足に思える」らしい。

 「今、私の研究活動は一つの節目を迎えていると感じている。最近、計算代数統計という分野が発展してきて、これが私の性分に合っているように思え、その方向に舵を切ろうとしています」。

 社会貢献の実績に満足することなく新たな研究課題への挑戦が続く。自分自身の傾向として意識し続ける「代数的な強みを生かす方向」が、いま再び活性化しようとしている。

(広報室)

図1.公募型の共同研究は、それぞれの規模は小さいものの、長年安定的に利用されており、多くの研究者に交流の場を提供し続けている。


図2.研究の種別により参加人数に違いがあるが、研究者数と採択件数は呼応して増減している。


図3.2010年度分まで申請書電子ファイルを電子メールで送って申請する方式だったが、2011 年度分からはWeb 画面に申請書を入力する方式になった。

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