とにかく前向き、行動的である。40代半ば、研究活動の面白さを知った金藤さんは、研究室で論文を書くだけではなく、目標や期限の定まった外部委託のミッションも引き受け、個人の研究とは異なるプレッシャーの中に身を置いている。「個人の研究にはフィードバックが必要です。自分がやっていることが現実に役立っているかどうかを確認し、その検証に基づいて、さらに研究を進めなければならないと思っています。」実務的な活動を通じ、統計科学の社会貢献に取り組んでいる。
環境科学と統計科学の融合
統計数理研究所には平成3年に入った。専門は、統計科学、計量生物学、環境統計学。研究テーマは「連続型の寿命分布の研究」「ヒトの成長解析に関する研究」「水質基準に関する統計的評価の研究」などである。
- 金藤 浩司
- リスク解析戦略研究センター・
環境リスク研究グループ准教授
8年ほど前、我が国の水質に対する急性毒性値の決め方に関する課題とかかわる機会を得た。米国などと比べ日本では環境問題に関係する統計家が少ないことを再認識し、組織としてこの分野の課題に関与する必要性を痛感した。平成14年度から4年間にわたり「環境科学と統計科学の新たな融合」という共通タイトルを冠したISM(統計数理研究所)シンポジウムを開催した。平成18年度から共通タイトルをはずし「地球環境研究」「環境リスク」といった個別テーマで実施している。
このシンポジウム等から発展する形で平成17年には特定非営利活動法人(NPO)「環境統計統合機構」を研究所内に設立した。全国各地で環境データを収集している自治体、環境団体、関連企業の人たちに、環境測定やデータ解析の科学的方法論や各種情報を提供することを目的としている。
「いろいろな方々が環境データを測定しているが、統計解析に耐えうるデータを測定しないと科学的判断はできない。NPOでは、そういう方々の具体的な課題に対して相談に乗り、統計リテラシー向上のためのセミナーなどを開いています。」
研究所が環境分野で一般社会の人たちと直接、接していく一つの仕組みをつくったのである。
締め切りに追われるプロジェクト
平成19年度からは、研究所のリスク解析戦略研究センター・環境リスク研究グループとして外部の法人から委託された二つのプロジェクトのまとめ役もしている。
一つは、(独)産業技術総合研究所を通じて委託された新エネルギー・産業技術総合開発機構からの「化学物質の最適化管理をめざすリスクトレードオフ解析手法の開発」で、研究所の椿広計センター長と特任研究員の影山正幸さん、藤井孝之さんの4人で担当している。
これは、ヒトや生態系への有害性情報の欠如を補完・推論し、同一の尺度で化学物質の有害性リスクを比較する手法を開発するものである。平成23年度までのプロジェクトで、21年度には中間評価が行われる。
「これまで何回か開発推進委員会や推進調整会議があり、個人の研究とは異なるプレッシャー、プロジェクト型の研究が有する独特のプレッシャーを味わっています。」
もう一つは、(独)国立環境研究所との共同研究「GOSATデータ処理プロダクトの誤差評価に関する研究」で、椿広計センター長、特任研究員の友定充洋さんと3人で担当している。
これは、平成21年1月に打ち上げ予定のGOSAT(温室効果ガス観測技術衛星)の計測データから二酸化炭素及びメタンの気柱量等を算出する際の誤差を評価し、個々のプロダクトに付与するエラーバーを算出する手法を開発するものである。宇宙空間で機器のノイズやその他の誤差要因に影響されない、観測データを得ることが目的である。
現下の課題にどう対処していくか
「二つのプロジェクトは外部資金を導入し、成果の到達期限を切られたプロジェクト型の研究なので、ゴールを見据えて、うまく進めていかなければなりません。」
金藤さんは、そのことが統計数理研究所の使命の一つ、と考えている。「現代の研究者は、成果が分かりやすく目に見える形の研究も進めていかなければならない。リスク解析戦略研究センターは、研究者が考えているものを、どうやって社会に還元し貢献していくか、現下の課題に対してどうやって対処していくか、を目的の一つとして設立された。そこで、このような課題対応型の研究もセンターにおける研究の両輪の一方として推進していかなければならないと考えています。」
現在、環境省中央環境審議会総合政策部会環境情報専門委員を務めている。「統計科学は今後とも現代的課題の一つである環境分野の課題解決に大きく関与していけると思います。私自身は、環境問題に対する統計的研究から離れられなくなりました。併せて、環境分野の課題に貢献できる若い統計科学者が育つことを支援していきたい。」 働き盛りの金藤さんは、遠い宇宙とともに次の時代をも視野に入れた研究活動を行っている。(企画/広報室)