コラム

データサイエンス・リサーチプラザでの1年間を振り返って

内田 悠美子(キヤノン株式会社 アドバンストIRT開発センター)

 私は現在キヤノン株式会社のアドバンストIRT開発センターに所属しています。2015年5月〜2016年3月まで、社内でのデータサイエンティストの育成を目的として、統計数理研究所のデータサイエンス・リサーチプラザ(受託研究員制度)を利用させていただいておりました。受け入れ教員は、産業界と親交の深くサービス科学研究センター長をなさっていた丸山宏教授にお願いしました。本欄では、私が受託研究員としてお世話になった1年間を振り返りたいと思います。

 受託研究員は、統計思考院内のデスクを貸与され、自由に利用することができます。また、毎週開催されるセミナーや研究会、公開講座への参加や、図書館の利用権利があります。図書館の統計学・情報科学に関する約6万冊の蔵書は圧巻であり、これらを所員の方と同等の条件で利用できる点は、他の研究機関では得られないメリットであると感じました。洋書の高度な専門書だけではなく、入門書も多く揃っており、年間を通して30冊程度の利用をしたと思います。公開講座では統計学・多変量解析の基礎知識を習得すると共に、今まで知見の少なかった時系列解析やサンプリング法について学ぶことができました。これらの講座内容については、社内でフィードバックをおこなっており、チーム全体の知見アップに貢献しています。

 データサイエンス・リサーチプラザの最大の魅力は、何と言いましても統数研の多数の先生方に相談の機会をいただけることです。先生方の研究分野を詳しくご紹介いただき、自社課題に対するアドバイスをいただくことで、共同研究に向けての検討をおこなうことができます。各分野の第一人者の先生方と自由にお話する機会をいただけることは本当に貴重であると思いますし、共同研究前のステップとして最適だと考えます。

 先生方に相談するにあたっては、最初は戸惑いもありましたが、懇親会等を通して多くの先生方をご紹介いただき、計8名の先生に研究内容や専門分野の最新動向をご紹介いただく機会を得られました。特に松井知子教授には、あるタスクの知見を他のタスクに応用する転移学習技術の具体的なアルゴリズム理解の相談に乗っていただき、理論面からのアドバイスをいただきました。現在は、先生方からご指導いただいた内容を踏まえて、次のステップに向けた検討を進めています。

 以上のように、データサイエンス・リサーチプラザは、データサイエンティスト育成やデータ分析に関する共同研究の模索をおこなう企業にとって魅力的な制度です。今回の派遣に関しては、受託研究員の第1号であったこともあり、初めの内はなかなか先生や研究者の方々との接点が得られず苦労した部分もありました。企業側のニーズに応じて人材交流面でのフォローがあると、より制度の活用のしやすさが上がるのではないかと思います。今後もデータサイエンス・リサーチプラザが起点となって、統数研の研究者と企業との交流が一層進むことを期待します。

 私の受託研究員としての活動期間は終了しましたが、研究員期間に得たコネクションを活用して、これからの統数研との連携を検討していきます。最後になりましたが、お世話になった先生方、職員の方々にこの場を借りてお礼申し上げます。1年間ありがとうございました。

統計思考院にて丸山教授と筆者

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