コラム

「お化け調査」が浮き彫りにする心の基底構造

吉野 諒三(調査科学研究センター長・教授)

 統計数理研究所では、1953年以来、「日本人の国民性」調査や「意識の国際比較」などの調査研究を遂行してきた。その中で1976年頃より登場した「お化け調査」というニックネームの心の基底構造研究は、故・林知己夫・元所長を中心に、所内では水野欽司、駒沢勉、林文、鈴木達三、所外からは飽戸弘、上笹恒、杉山明子、鈴木裕久、岩男寿美子、丸山久美子、堀洋道らのMDS(多次元尺度法)研究会によって始められたものである。ニックネームだけからは戯れたものに思えるが、実は、調査技術や心理学的に深遠な学術研究なのである。

 「お化け調査」で超自然のものについて尋ねた質問では、UFOや雪男などの近代的なもの、幽霊、人のたたりなどの精神的なもの、カッパ、龍などの架空の生き物を12種あげ、その各々について、「存在-非存在(いる-いない)」、「情緒的回答(怖い-怖くない)」、「期待(いたら面白い-つまらない)」の次元に関する8つの言葉のうち最もぴったりする言葉を選択させた。結果は、どの対象についても最も多かったのは「いない・ない・ばかばかしい」であり、存在を肯定するものは少なかったが、興味や期待の感情は、特に近代的なものに対し比較的多かった。そのような関心は米沢よりも東京、若い年齢層、高学歴の方が高い傾向が見られた。

 「日本人の国民性」調査では、1958年と比べ2008年には「あの世」を信じると答える割合がほぼ倍増している。50年前は若者の方が高齢者よりも「信じる者は」少なかったが、現在は逆転している。他方で、女性がどの時代も、どの年齢層でも、男性よりも「信じる」が多いようである。

 「お化け調査」では、世論調査のように社会的望ましさが入り込む人々の「意見(たてまえ)」ではなく、興味や感情を表す「態度」に着目し、性別や年齢層、学歴などの外的属性を越えたパーソナリティの分類の特定(「合理派の人・合理派ではない人」)が試行された。その成果は、1990 年代初めにはガン告知の是非の問題、病気治療におけるそのパーソナリティの影響に関する研究などの医療問題や、原子力発電所に関する住民の意識調査、選挙投票行動の解析などへ発展した(吉野・林・山岡、2010)。

 現在遂行中の科学研究費・基盤研究S「アジア・太平洋価値観国際比較調査」では、「文化多様体解析(CulturalManifold Analysis、CULMAN)」と称し、文化や生命観などに関する多様な質問項目を取り入れているが、神仏や死後の世界や霊魂の存在、超能力など超自然に関する興味、さらに死生観に関する質問が、林の「お化け調査」に密接に関連しており、解析が進行中である(朴・吉野、投稿中)(http://www.ism.ac.jp/ism_info_j/kokuminsei.html)。

参考文献

●朴堯星・吉野諒三(投稿中). 「お化け調査」が浮き彫りにする人々の意識の基底構造. 統計数理. ●林知己夫・米沢弘(1984). 日本人の深層意識. NHKブックス、414. ●吉野諒三、林文、山岡和枝(2010). 国際比較データの解析. 朝倉書店.

「あの世を信じる」人の割合(年齢層別%):第2次と第12次「日本人の国民性」調査2013年3月東洋大学と共催の公開シンポジウム「妖怪学と環境問題」・ポスター

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