コラム

ISMとIMS

西山 陽一(数理・推論研究系)

 統計数理研究所の英語名はThe Institute of Statistical Mathematicsであり、アルファベットによる略称はISMです。

 一方、アメリカを本拠地としてIMSという略称をもつ統計学の団体が存在します。Institute of Mathematical Statisticsです。

 外国人研究者と話していると、なぜ日本の統数研はIMSでなくISMと称するのだと聞かれることがよくありますが、私は、真偽は確かではないがと断った上で、日本語の「統計数理」の直訳としてStatistical Mathematicsを採用しているのだと説明し、さらにMathematicsに対応する語としての「数学」と「数理」の語感の違いを説明しうと努力するのですが、私の英語力ではうまくいかないことも多いです。もっとも私自身が語感を誤って理解しているという批判もあるかもしれませんが。

 IMSは研究所ではなく学会です。学術誌としてThe Annals of Statistics, The Annals of Probability, The Annals of Applied Statisticsなどを刊行し、何だかんだいってアメリカがナンバーワンであるこの世界において、最も権威ある統計学関係の団体のひとつです。The Annals of Statistics(AS)がその名が示唆するとおり世界一の統計学雑誌であるかどうかについては異論もあるかもしれませんが、私は同誌に自分の論文を掲載することを目標として研究に励んでいます。日本の統計学研究者がもっとのびのびASに出版し、例えば院生さんあたりが自分の博士論文をASに出すのは当然だといった気分で研究して頂けるような雰囲気を作るにはどうすればよいのだろうかと時々考えています。そのたびに、きっと自分の世代の研究者がもっとがんばってがんがんASに出せばすむことだという結論に達し、後進の人たちのためにも真剣に研究に取り組まねばならないと改めて身が引き締まる思いがします。

 さて、2011年7月3日から6日まで、さいたま市の大宮ソニックシティにてThe 2nd Institute of Mathematical Statistics Asia Pacific Rim Meeting(IMS-APRM2011)が開催されます。我が統数研も共同主催のひとつとして参画し、私もlocal organizing committeeの一員としてお仕事をさせて頂いています。こうした大きな国際会議の企画に携わるのははじめてでして、期待と不安と緊張が入れ混ざった不思議な気分で仕事をはじめたところです。中国や韓国からはアメリカに多くの留学生を送り出していることもあり、発言力も強く、これらの国の勢いにやや押され気味のような気がしないでもありません(私見です)。しかし、今回の会議とは関係ありませんが、台湾のAcademia Sinicaのとある教授に「貴研究所の若手のみなさんの講演はよい意味でアメリカ的でスマートですね」と褒めるつもりで言ったらややご気分を害されたように見えたこともありました。もしかしたらアジア各国も過度のアメリカ化を懸念している面もあるのかもしれません。日本の理論統計学はある意味ではやや世界の(アメリカの)潮流に立ち後れた感もあるかもしれませんが、安易にアメリカ化されず独自路線を維持しているという強みもあります。この会議そのものの成功が第一義であることはいうまでもありませんが、このイベントを通じて世界における日本の統計学および統数研のプレゼンス向上に少しでも貢献できればと思います。

会議 IMS-APRM2011 のロゴマーク

ページトップへ