コラム

海外に滞在して

池田 思朗(数理・推論研究系)

 2003年2月に九州工業大学から統計数理研究所に異動し、その4月から1年間、日本学術振興会の特定国派遣研究者制度によりロンドン大学(UCL)に滞在しました。そして2007年10月からは、総合研究大学院大学の海外派遣制度に基づきオーストラリア国立大学(ANU)に1年間の予定で滞在しています。留守中、研究所の皆様には大変御迷惑をおかけしています。

 海外に滞在すると日本で当たり前だったことが難しかったり、その逆だったりと驚くことが多々あります。食べ物、交通機関、文化、公的な制度などもそうですが、大学のシステムも同様です。以下では日本の大学や研究所に関して海外の大学との比較を、私なりに述べようと思います。

 英国ではUCL の他にいくつかの大学を訪問しましたが、Cambridge などの一部の大学を除けば、大学院生の多くは英国以外から来ています。これはANU も同様です。教官の多くも他国の出身者です。海外出身者の多くは、教官に限らず学生もその国での就職を視野にいれて滞在しています。留学生の多さは日本の大学とはずいぶんと異なる印象です。海外からの人材を受け入れるべきかは難しい問題ですが、大学生活や研究活動の拠点として移住し易いかといえば日本のハードルが高いことは否めません。もちろん言葉や文化そして社会全体のシステムが大きな要因でしょう。

 大学の運営に関してもずいぶんとシステムが違うようです。教員はいくつかの雑務を順番に担当し、仕事によっては忙殺されるといったことを聞きますが、大学や研究科の運営はDean と呼ばれる職に集約されています。Dean は研究室で会うことはほとんどなく、研究は行なわずに運営を一手に担う職のようです。Dean とは別にHead of Department には教授が就任していますが、運営に関して教授や准教授に決定権のある事項は日本の大学に比べ少ないようです。Dean は研究科の方向性を決めるため、採用する研究者やその研究内容にもある程度の意向が反映されることになるようです。

 海外の学生や研究者の問題意識、モチベーション、研究のやり方をこうして真近に見る機会が得られたことは、これから研究を続けていく上で貴重な経験だと思います. あらためて長期出張という機会を頂けたことを感謝致します。

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