コラム

統計科学のフロンティア―新しい分野の誕生と出版の役割

伊庭 幸人(モデリング研究系)

 現代の統計科学は、機械学習やパターン認識、人工知能、情報理論などと一体となった新しい学問分野として発展している、という話をすると、「その分野を勉強するには、どういう本を読めばよいのですか」という質問がくる。

 筆者が編集委員のひとりをつとめた「統計科学のフロンティア」シリーズ(岩波書店、全12巻) の目的のひとつはこうした要求に応じることにあった。結果的には「データサイエンス」シリーズ(共立出版) や「予測と発見の科学」シリーズ(朝倉書店)など、関連分野の企画が既にあり、編集方針の違ったものが競演することとなったが、フロンティアシリーズの特徴は、方法論に重点をおいて対象別の巻は最重要と考えた分野に限ったこと、ひとつの巻に異なる分野・視点の著者が執筆することで新しい学問の姿を編集サイドが積極的に提示しようとしたこと、ではないかと考える。

 幸い、これらの試みは読者に受け入れられたようであり、他社のシリーズとあわせて、新しい学問の姿を提示することができたと思う。今後の課題は、よりテキスト的・系統的なレベルで、分野融合的な教科書を作り出すことであろう。海外では、マッカイの情報理論、ビショップのパターン認識と機械学習、ヘイスティらの統計的学習理論など、統計科学を含んだ領域を統合的に扱った書物が既に出現している。また、それとは別に、応用数学・数理科学の見直しという視点からの、より広汎な取り組みも重要と思われる。

既存の分野やその利害関係を超えたところで、現実の一歩先を行く世界を見せるのが、出版の仕事の使命であり醍醐味だろう。筆者も編集委員としてその一翼を担えればと考えているが、厳しい制約のもとで学術の将来のために努力されている出版社の方々にまず感謝したい。

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