第47巻第2号277‐290(1999)  特集「情報量規準」 [総合報告]

水産資源学における赤池情報量規準の適用

東京大学 松宮義晴

要旨

水産資源学とは魚・イカ・エビ・カニなどの水産資源生物の数量変動や資源管理についての学問分野であり,生態学の基礎や統計学の原理を大幅に取り入れた,数式や数学モデルを駆使する精密な科学でもある.水産資源学に赤池情報量規準(AIC)を適用した具体例として,再生産曲線の推定とDeLury法による資源量推定の研究を詳しく紹介する.他の一般的な適用例としては,成長曲線の推定と体長組成の分解,標識放流法による資源特性値の推定,資源変動モデルの構築,網目選択曲線の推定などがある.日本の水産資源学の分野にAICが導入された過程を述べ,AICの活用について将来を展望する.

キーワード:赤池情報量規準(AIC),水産資源学,資源量推定,再生産曲線,資源特性値.


第47巻第2号291‐306(1999)  特集「情報量規準」 [研究ノート]

大規模データの発見的全探索:
大規模地球電流系構造の自動同定

統計数理研究所 樋口知之

要旨

地球の磁気圏には,太陽風との相互作用の結果,大規模な電流系が構成されている.その規模,形態などは時間・空間的に変動の大きいものである.本研究では,一日10数回絶えず極軌道を周回している人工衛星のデータから,この電流系の様相を自動的にかつオンライン処理で特徴づける手法を提案した.一回人工衛星が極域を通過するたび,主として磁気経度方向成分一変量にのみ,大きい磁場変動が観測される.このスカラー空間系列は,観測された3次元空間系列に対して,主成分分析から得られる情報をもとに適切な座標変換を行うことにより導出される.さらにこのスカラー変量に,可変ノードスプライン関数を最小2乗法であてはめ,その節点の位置と値で,電流系の特徴付けを行った.この当てはめにより,5年間のすべてのデータセットの大規模地球電流系構造の自動同定及びタイプ別への分類が実行され,地球物理学的見地からはさまざまな新しい知見が得られつつある.

キーワード:AIC,可変ノードリニアスプライン,主成分分析,情報圧縮,発見科学.


第47巻第2号307‐326(1999)  特集「情報量規準」 [研究ノート]

多変量時系列構造モデルの構築における
AICの役割

総合研究大学院大学 近藤文代

要旨

本稿は多変量時系列構造モデルの構築におけるPOSデータの分析を通して,モデル選択規準としてのAIC(Akaike(1980)ではベイズモデルの情報量規準はABICとなっているが,本稿ではAICと記述する.)の役割に焦点を当てたものである.年々強力となるコンピューターの計算力と小売業における膨大な量の詳細データの蓄積を背景に,個別のモデルではなく,多くのデータの変動要素を統一的に取り扱うことが可能なフレームワークで数十のモデル設定を行った.モデルはトレンド成分,曜日変動成分,値下げ効果成分からなり,さらに定係数に加えて時変係数も取り扱える柔軟なモデルであるため,POSデータの特性としての競合商品間の関係や時間的関連を直接モデル化することが可能である.以下の3段階でモデル群を構成し,それらの比較を行った:1)各商品における価格と販売量の変動の関係を表す価格関数の決定(一変量モデル);2)価格関数と販売量に関する各商品間の競合構造を表す多変量モデル;3)競合構造が変化しても対応可能な時変係数構造モデル.モデル選択の規準としては異なるモデル間で統一的に比較が可能なAICを使用し,日次および週次のPOSデータの分析を行った.分析の結果,各段階において経験的に納得のいくモデルが最良のモデルとして選択された.例えば,最終段階の定係数モデルと時変係数モデルの比較では,競合関係の時間的変化も表現できる時変係数モデルの方が良いモデルであることがAICにより示された.このように,分析者が自由に想定したモデル構成において,統一的な選択規準であるAICを用いることによってはじめて最良のモデルを探しだすことが可能になる.

キーワード:状態空間モデル,統一的なモデル選択規準,日次・週次POSデータ,時変係数,競合構造.


第47巻第2号327‐342(1999)  特集「情報量規準」 [研究詳解]

ジャンプ拡散過程モデルによる非ガウス時系列の
フィルタリングと予測

総合研究大学院大学 飯野光徳
統計数理研究所 尾崎 統

要旨

本稿では,ジャンプを含んだ時系列モデルの新たな推定方法を提示した.  我々の方法は,複数のカルマン・フィルターと新たなジャンプ検出アルゴリズムから構成される.観測値は,有限個の状態のひとつから生じると仮定し,事後確率を用いて事後的に検出を行う.その結果,これまでの研究では検出されることの無かった低頻度で大きな振幅を持つジャンプを検出することが可能である.

キーワード:ジャンプ拡散過程,状態空間モデル,AIC,ジャンプ検出,ファイナンス.


第47巻第2号343‐358(1999)  特集「情報量規準」 [研究詳解]

Kullback‐Leibler情報量による
薬物動態測定時点の選択

北里大学大学院・北里研究所  矢船明史
統計数理研究所  石黒真木夫・北川源四郎

要旨

臨床の分野では,一人の被験者から反復測定されたデータの経時的な動きに対して,様々なパラメトリックモデルを用いた推定が行われる.その代表的な例として,ヒトに薬物を投与した後の血中薬物濃度推移を薬物動態学的モデルにより推定することが挙げられる.対象となる被験者の肉体的負担などの理由から,一被験者あたりの測定時点数が限られるため,この限られた測定時点を慎重に選択する必要がある.本論文では,血中薬物濃度推移を推定するために最適な測定時点を選択する方法を詳解する.この方法では,推定の良さをKullback‐Leibler情報量により評価した上で,あらかじめ選ばれた候補時点の中から最適な測定時点を選択する.この情報量は,あらかじめ与えられた適切な薬物動態学的モデルにより規定される血中薬物濃度の分布と推定された分布との近さを測るものである.実際の薬物動態データに適用した結果も合わせて提示する.

キーワード:血中薬物濃度の推定,ポピュレーション・ファーマコキネティックス,最適測定時点の選択.


第47巻第2号359‐373(1999)  特集「情報量規準」 [原著論文]

B‐スプラインによる非線形回帰モデルと情報量規準

九州大学 井元清哉・小西貞則

要旨

B‐スプラインを用いた非線形回帰モデルに基づいてデータから情報抽出を行う方法について検討する.確率分布によって表現されたB‐スプライン非線形回帰モデルのパラメータを罰則付き対数尤度関数に基づいて推定するとき,平滑化パラメータと節点の個数の選択がモデル推定において重要となる.従来は,その選択規準として,交差検証法,一般化交差検証法,情報量規準AICの自由パラメータ数を調節する方法や赤池のベイズ型情報量規準ABICが用いられてきた.本稿では,情報量の観点から構成したモデル評価規準に基づいて平滑化パラメータの選択を行い,B‐スプライン非線形回帰モデルを推定する方法について述べ,数値実験を通して従来の手法と比較し,その特徴と有効性を検証する.

キーワード:B‐スプライン,非線形回帰,モデル評価,平滑化パラメータ,情報量規準.


第47巻第2号375‐394(1999)  特集「情報量規準」 [研究詳解]

一般化情報量規準GICとブートストラップ

統計数理研究所 北川源四郎
九州大学 小西貞則

要旨

情報量規準AICは最尤法の利用を前提として導出された.しかし,対数尤度を平均対数尤度の推定量とみなしてバイアス補正を行うという考え方は,より一般の推定法に対しても適用可能である.竹内(1976)はモデル族が真の分布を含まない場合を想定しTICを導出している.またKonishi and Kitagawa (1996)はこのバイアス補正の方法が統計的汎関数で定義される一般の推定量に対しても適用できることを示し一般化情報量規準GICを導出した.一方,Ishiguro et al.(1997)はブートストラップ法にもとづき,広範なモデルや推定法に適用できる拡張情報量規準EICを提案している.

最近,Konishi and Kitagawa (1998)とKitagawa and Konishi (1998)はGICの導出法を拡張し,バイアスの二次補正や対数尤度のブートストラップ補正の分散減少法に関する理論を確立した.本稿では,簡単な例を用いながら,GICとその精密化の解説をする.第2節では赤池のバイアス補正の方法を説明し,情報量規準AIC,TIC,GICとEICを示す.第3節ではGICの導出法を簡単に説明する.さらにこの方法の拡張として,第4節では二次補正された情報量規準について,また第5節ではEICの分散減少法について考える.第6節では簡単な数値例を示す.

キーワード:モデリング,モデル評価,対数尤度,Kullback‐Leibler情報量,統計的汎関数,バイアス補正,二次バイアス補正.


第47巻第2号395‐424(1999)  特集「情報量規準」 [統計ソフトウェア]

情報量統計学の技術的側面

統計数理研究所 石黒真木夫

要旨

情報量統計学を

  1. データに応じた新しいモデルを開発し,
  2. そのモデルをデータにあてはめ,
  3. 得られた知見とそれを得た方法を発表する

という一連の流れであると考え,その各段階を支援する技術として,

  1. プログラムの虫とり支援のサブルーチンプログラム‘bug’の紹介と使用法の簡単な説明,
  2. 対数尤度最大化のためのサブルーチンプログラム‘DALL’の紹介と使用法の簡単な説明,
  3. ソフトウエア配布技術としてオープンマーケットライセンス(OML)条件のもとでの著作権表示の提案,

を束ねた.

キーワード:虫とり, 対数尤度, 数値的最適化, 疑似ニュートン法, 著作権表示.